酒と肴
4
小さなテーブル、エール瓶複数、銀製グラス、純白皿にチーズ、ソーセージ、オリーブ漬け。
女、少々、驚く。
銀製グラス、純白皿、かなり高価。
それにエールも、質がよい。
「何故?」
女、言葉発する、
エナ、振向く。
「何故? 何がだ?」
「銀製グラス、白皿、高価な品物だ。庶民にはなかなか手に入らない」
女、銀製グラスに口を付け。
「エールもいい」
言葉発し、エナを見る。
エナ笑い。
「仕事で得る副収入さ、要らないのに置いてく。俺は金の上乗せがいいのだが」
言葉、発する。
エナ、エール少し飲む。
異様に喉が渇き、女、警戒す。
「いい酒だ。それになかなか可愛な。歳は十代終わり頃か」
女がチーズをつまみ、エールで喉を潤しながら言葉発する。
「今年で二十二だ」
エナ、答える。
女、ふうん、そんな感じで受流す。
「若く見えるがな」
女、笑う。
屈託ない女の顔は、かなり高得点だ。
エナ、少し戸惑い。
理由は出会い。
初対面で、殺されそうになる。
それもいきなり……。
しかし女、驚く事を発す。
「さすが、レイガスの息子。エナ!」
エナ、驚き女見る。
当然だ。
いきなり、名前を呼ばれた。
「私はマーガレット、昔は軍にいた。今はプーだ」
女……いやマーガレット言葉発し、エール飲干す。
二杯目、手酌。
「何故、俺の名を」
エナ、驚嘆す。
「気にするな、私はお前の味方だ。これは信じろ」
マーガレット、笑う。
そしてチーズ摘まむ。
塩気効き、辛さ際立つ味。
最後エールで流込む。
「それにしては、さっきのは酷いぞ。ナイフを喉元に押し当てた」
エナ、エールを飲む。
また少し、緊張解ける。
「いいではないか、挨拶としてくれ」
マーガレット、エナを見る。
エナ、無表情だが心は違う。
早く出てけ! もちろん言葉にせず。
エナ、少しオイル漬け食す。
そして聞いた。
「父親の手掛かり捜すとは?」
マーガレット、エールを一息飲干す。
三杯目の手酌。
「レイガスは、国の情報機関に勤めていた。これは知っているか?」
「ああ、グレン市に来た時も、こちらのそんな場所で仕事していた。父親はあまり家には居なかったが、俺は気ままに生きた」
エナ、小さな頃から十代半ばまで、お手伝いと言われる老婆と暮らす。その老婆、エナの母親替わりで、父親替わり。
その老婆、あっさり死んだ
それが十代半ば。
それからは、一人だった。
「レイガスは数年前に突如、情報機関を辞めた。普通なら去る者追わずだ。しかしレイガスは違った。お前の父親は、知りすぎた。辞めるは死ぬに等しかった」
マーガレット、言葉発する。
エナ、それを聞く。
エール飲み、マーガレットに言葉発する。
「父親は何をした? それに何故、この家に国の機関が踏み込まない」
エナ、マーガレットを見る。
「今、国はレイガスを追っている。必然的にお前にも、その手が来る」
「何故、今までほっとかれた。あんただって、追ってきたようには見えない」
エナ、言葉発する。
「それはレイガスが精神使いだからだ」
「精神使い?」
エナ、大きな声上げる。
しかし、それに覚えあり。
父親の心、父親の未来、全く読めず。
何回いや何十、何百、心と未来を探ろとする。
しかし一度も、見えない。
その度に、父親より言葉があった。
「俺の心は、読めないぞ! 俺の未来は俺だけだ」
不意にエナが、言葉発する。
その言葉、父親の口癖。
「思い当たる節ありだな」
マーガレットが笑う。
妖しい笑顔、エナにくれてやる。
「そろそろ、精神使いの魔力が切れるらしい」
そして言葉発する。
知ってる様に、エナに伝え。
「は? 何故わかる。それに精神使いが父親と何故わかる」
エナ、詰問す。
そして少し余裕、生まれる。
ソーセージ、頬張り噛締める。
パリパリ、皮破れてる。しかし肉汁少ない。
理由は簡単。
ボイルしてない。
一度火通して保存してあるが、それでも旨さ半減。
「私に教えてくれた。私とレイガスは、そんな仲だ」
「へえ」
エナ、気のない返事。
エール、飲干す。
気づくと、エール瓶が空いていた。
手に取りコルク抜く。
マーガレット、それ見てどこか涙目。
エナ、それに気づく。
「どうした?」
エナ、言葉発する。
「似てる。レイガスに……」
マーガレット、笑う。
「マーガレット、あんた、父親のなんなんだ」
エナ、急所を聞く。
ため息混じりに、聞いて見た。
そんな感じだ。
「嫁だ」
ぽつり、漏らす。
エナ、聞流しかける。
しかし驚き、マーガレットを見る。
マーガレット、少し視線を落とし再び目線を戻す。
そして、言葉を発する。
「はじめに言おうと思ったが、ここまで来てしまった……エナ、お前は私の息子だ。つまり母親になる」
エナ、動かなくなる。
赤い瞳、マーガレットに釘付けになる。
「言っとくが、私は今年で四十迎える」
マーガレット、エール飲み歳を教える。
「えー!」
エナ、驚嘆す。
マーガレット、頷きながら言葉発するが……。
「わかる、今まで私は……」
「あんた、四十歳かあ!」
そちらを、驚き。
「おい、そちらか!」
マーガレット、呆れる。
エナ、舐めるように見る。
しかしどう見ても、四十の肌張り、顔立ちに似合わず。
同年と思っていた。
「母親だ」
もう一度言葉発して、迷彩柄服より紙一枚投げ。
エナ、それを受け止める。
そこには、エナの幼い頃の空間絵がある。
空間絵、空間を切裂き紙に閉じ込める高度文明人が使いし業である。
話が反れた。
元に戻す。
幼きエナの空間絵には、二人の男女が笑っている。
一人は父親、レイガス。
もう一人、なんとマーガレット。
それも今と変わらない。
「私は歳のとり方が、普通より若干遅くてな」
マーガレットが笑う。
エナ、若干の域でないと二度見する。
「母さんが帰ってきた。言葉くれないか?」
マーガレット、リクエストする。
しかしエナ、母親と認めず。
首を横に振り、唇噛む。
マーガレットは、呆れて笑う……が、外からの殺気に瞳厳しく。
「やはり、切れていたか!」
マーガレット、凶器抜いて身構える。
エナ、物音耳にす。
「隠れてな、すぐ終わる」
マーガレット、発する。
とっさに向こうの、父親の資料部屋、逃げるエナ。
それをマーガレット確認する、そして舌を舐め獲物待つ。
扉壊され、何人か男が流込む。
そこで血の惨劇、はじまる。