血天使
グレイグ国グレン市、国、南側位置するここ最大港街を有する。さらに内陸部には地下資源「大地の血液」が豊富に眠っていた。
大地の血液。
地底に眠る特殊な泥で、水に浮き多種多様の液体を採取する。
グレン街の北東に広大な草原地帯がある。「グレン草原」捻りない場所の土の下には、大地の血液が眠っている。
時期は春先で息吹を得るにはまだ早く、草は枯れていた。
グレイク国の南に位置するグレンは、意外なくらいに冬寒く降雪も珍しくない。
夜空の月光は、一人の女を妖艶に映す。
迷彩のジャケットはやや短く、同じく迷彩の半ズボンは脚を丸裸魅せる役者として一役買っている。
体型は少々大柄ではあるが、歪な身体線は異性を虜にする魔力を秘め。
彫りのハッキリした顔付きは、瞳大きく鼻筋高く唇は薄い。
合格! と頷く男は数知れず。
煩悩を振撒く女である。
しかし女は、異様であった。
歪な身体線、整いし容姿、そこに赤が施されている。
それは液体、心地悪く生ぬるい。
鮮やかな宝石より光輝き、後に輝失い黒く変色し女にへばりつき。
月光は、白黒世界を浮かび上がらせる。
白と黒、それ以外は見えないのは当然。しかし何故、赤が浮かぶのか?
それは嗅覚が教えてくれる。
鼻から入る鉄臭それは……血。
血は、白黒世界から赤を想像させる。
女の右手に鈍い輝きがある。
月光に照らされし鈍い輝きは血滴り、それが凶器であると目に焼きつけた。
凶器は大きく重く、妖しいまでに美しく、血を求めて次の獲物を物色する。刃渡り鋭く重いそれは、女に不似合いである。
女の近く、いくつもの人間だったモノが存在する。
枯れた草原に横たわるそれらは、見事なまでに切り刻まれ貫かれ、肉切裂き骨砕かれる。
モノの一つは、口を引き裂かれ、凶器を口に突っ込まれ、後頭部を貫き、その後一回転させ、致命傷をくれてやる。
あるモノは、両脚の膝下を切断し動けなくさせ、両腕も切断され苦しみながら、体内より血抜去り、青くなり息切れ。
少し風が吹く。
風は錆びた鉄臭運び、女の鼻を弄ぶ。
狂ったかの様な女の笑顔は、対峙する男共を奈落へ突き落とす。
女の前には三人の男が、いる。
男は屈強な男二人、羽振りのいい男一人。
羽振りのいい男は、屈強な男共を雇いし金持ち。
この男の命令一つで、屈強な男共が女を襲うはず。
「殺せ! 早く殺せ!」
しかし男共は、脚が動かず。
女の豪腕に、恐怖する。
血の海に、自らの血を捧げる事に躊躇い、身体動かず。
これが始まる少し前、男共は女を見、歪な身体に魅力され、整った顔に本能刺激した。
「楽しんで、楽しんで、殺してやろう」
こんな台詞をほざいた男、股間を蹴られ凶器で男の徴、一突き! 深く押込み、腑掻回され引裂く様に凶器を抜かれ。
糞の臭さが凶器に移り、鬼女の形相に変わる。
「早く、早く、殺せ!」
羽振りのいい男は悲鳴を上げる。
それは月光に吸い込まれ、辺りは静か。
不意に女が動く。
的は近くの屈強な男の一人。
身構える前に、懐飛び込み喉を一突き。
男、何もできず、喉の不快感に涙する。
痛みは不思議とない。
しかし絶望、頭をよぎる。
「死にたくない」
男の言葉。
手にしている剣、無意味そのもの。
「……ふん」
凶器の刃を返し、湿った音が首から聞こえ、それが在らぬ方向を向く。首の骨を砕く。
男、崩れ落ちた。
首から赤を流し、凶器を滴らせ。
最後の屈強な男、背中を向ける。
「待て、お前、逃げるな!」
悲鳴にも似た声は、羽振りのいい男がほざく。
逃げた屈強な男を女が追う。
速い! まるで疾風の如く、追いつき脚首に凶器を突き刺した。
ブツリ!
腱の切れる音鈍く、辺りに響き男うつ伏せる。
女、男の背中を踏みつけ、首筋に凶器をくれてやる。
ゴツリ! 首骨を断切り、ねじ切る様に凶器を抜く。
女が背中降りると、痙攣しながら息が無くなる。さて最後の標的。
「くそ、こ、これが目に入らないか」
羽振りのいい男が、拳銃を見せる。
リヴォルヴァー式のそれ、高度文明の名残であり、一般人にはまず手に入らず。
それを見た女、疾風の如く間合いを詰めて、右腕を切断す。
拳銃は握られたまま、腕が草原に堕ちる。
其奴、はじめから撃つこと考えず。
それが故に、拳銃を見せた。
撃つなら、見せる前に仕留める。
虚をつき、上手く行ったかも。
しかし見せたことが、全ての間違い。
間違いは腕を失い……。
「ま、まて、待て、殺さないでくれ」
命乞いに聞く耳持たず、女は凶器を脳天に打ち落とす。重たい一撃に、鈍音が耳を貫く。
頭割れ崩れるよくに、堕ちていく。
瞳孔は見開き死を迎える。
女、深いため息に、周り見渡す。
「弱い!」
呆れた女が、凶器を仕舞う。
鞘に戻したそれを右手に抱えると、月を見上げてたたずんでいた。
風が吹く。
冷たい風は、冬の名残あり。
女、羽振りいい男見る
潰れた頭から流れる血、どこか満足げに服を漁る。
腰に金袋があり、銀貨、金貨、多数あり。この重みは殺した男共より価値があった。
女、金袋に笑いもせず、夜の闇に月光より明るく浮き上がる街を見る。
妖しいまでに鮮やかな街、女は焼付けた。
「グレン市。そこに、いる」
ぽつり、言葉吐く。
コイツが来たのだ。