01.奥井貴志は優雅な一日を送れない
気まぐれで書いてみました。
時刻は12:00。
目を覚ました男は、視線だけで時刻を確認すると二度寝をしようとした。
「いい加減起きてください、タカシ様」
タカシと呼ばれた男、奥井貴志は、ゆっくり布団から起き上がると大きな欠伸をした。
「ミリィ、コーヒー頂戴。濃い目で」
「無いです」
ミリィと呼ばれた、黒を基調にしたメイド服に白いエプロンをした美人と言うより可愛い少女――――よく見ると人間の姿に黒い猫耳と黒くて細長い尻尾をつけた少女が、問いに被せる様に即答する。
男は、少女の扇情的な丈のスカートと膝上まで覆う白いソックスとの間の艶やかな生足を眺めつつ、問いを続ける。
「じゃあ、買ってきて。インスタントで良いから」
「マニ―がありません」
「え、なんで?」
少女は大きくため息をつくと、ジト目で答えを続けた。
「タカシ様、貯金と貯蓄は使えば減るということをご存知ですか?残りのマニ―は38マニーです。倉庫の食材はあと3食分あるかないかです。今月の決算日まであと二週間。新たに振り込まなければ電気、水道、ガスも止まります。認識はよろしいでしょうか?」
「そこはほら、ミリィが稼いで――――」
少女は眉をしかめて大きく舌打ちをする。
「ですよねー。ここから出れないですもんねー」
男は、倉庫からナイフやショートソード、革製の鎧など、六畳の和室には不似合いなそれらを持ち出し身に付ける。一緒に持ち出した鞄に色々な物を詰め込むとそれをたすき掛けにする。
「異世界なんだから寝ているだけでお金が増える魔法とかないかなぁ」
「ありません」
「ミリィさん、ミリィさん、そこは即答しなくても。もっとこう可愛く、そんな魔法あれば良いですねうふふ。とか言ってくれないと」
「言いません」
「えー」
「タカシ様、ちゃんと仕事をしてくれれば、しっかり稼いで素敵ですご主人様うふふ。とか言っちゃいますから頑張って稼いできてください」
「そこ、棒読みで言われても」
「ミリィのためにも一稼ぎ行きますか」
少女の頭を軽く撫で、男はドアに向かう。
「お待ちくださいタカシ様、お弁当です」
「おっ今日は何?」
「サンドイッチです。あり合わせで作った物で申し訳ありませんが」
「ミリィの作った物ならなんでも美味しいから大歓迎だよ」
少女は、頬を赤く染め、視線を俯き加減に乱暴にサンドイッチの包みを男に突き付ける。
「行ってらっしゃいませタカシ様。お早いお帰りをお待ちしております」
男は、サンドイッチを受け取り、少女の頭を再度軽く撫でると「行ってきます」と短く答えて部屋のドアを開ける。
ドアの先に広がるのは石造りの部屋、異世界でダンジョンと呼ばれる建造物。
「ですよねー」
男は、数か月前の事を思え返す。
異世界に転生したときのことを。
自分の境遇を。
「もっと簡単に引きこもれるはずだったんだけどなー。異世界でも人生ハードモード乙」
男は、特に悲壮感もなくそう呟くとダンジョンに一歩足を踏み入れた。
神様、何処かに寝ているだけでお金が振り込まれる仕事ありませんか?