クエスト004:ユニコール、始動
明日は諸事情により投稿なしです。
人は生まれながらにして平等ではない。
いや、今の状況を見たら誰でもそう思っちゃうよね。
目の前の敵は雷獣の如し、刀を構え、熱気は目に染みて視界を遮る。
「来いよテロリスト、言っておくが僕は勝てる戦いしかしないんだ」
「ならば、戦いにすらならなくしてやるよ!!」
足場が崩れた上での最高速度、音速を超えしその一閃。もはや二人は攻撃に反応することすらできなかった。
しかしその一閃、その攻撃を翡翠はただ受け止めた。
「『全防御』」
喉を突き刺していたはずの刃は――紙になっていた。
(触れられたものも紙に......どれだけ応用が利くのよ、この子のスキルは!!)
しかし雷獣はその速度を緩めない。刀は手放し、全力で翡翠の周囲を旋回し続けた。
「燃え尽きろ!!」
(まずいわ、どれだけ触れたものを紙にできても、熱そのものはお兄さんを襲い続ける――!!)
「あっちっち!!」
朱里の予想通り、翡翠の周囲には蜃気楼ができ、じわじわと熱で体力を奪っていった。
「よし......やるなら今だ!! 朱里さん、そこにつかまって!!」
「えっ!?」
朱里は翡翠に指示通りに柱に捕まる。
「波に呑まれな、全解除」
「何を今更......ッ!!」
翡翠は周囲の紙を全て解除した。
「最後に君に投げたのは雑誌じゃない、観光ガイドさ」
八つ裂きにされたはずの紙はから大量の水が飛び出した。
「ぐうぅ!! これは、海水か!!」
「その通り、見事にフェイクに騙されてくれたね」
翡翠は紙を放り投げロープを柱に巻きつけた。
そこからは阿鼻叫喚である。
三人の男女は狭い倉庫内めいいっぱいの海水が襲い掛かり全てを流しつくした。
「げほっ、くっ......どうなった」
倉庫外へと流された蒼也はふらふらと立ち上がった。
「ッ!!」
「どうだい? まだやるか?」
喉元に手が突きつかれた。朱里の能力によりいち早く位置を探し出した二人は蒼也を囲んでいた。
「......降参だ。スキルを奪うなり、殺すなり好きにするがいい」
蒼也は両手を挙げ下を俯いた。
決着がついたのだ。
「じゃあ取引だ、僕達に協力しろ、そうしたらスキルも命も奪わないでやろう」
「......馬鹿なのか貴様は、俺が裏切ったらどうするんだ」
「裏切らないわ、お互いの強さはわかった、あなたも私達が協力すれば真犯人を倒せるはずよ」
「......本当に、本当にいいのか、俺で」
俯いたまま、蒼也は聞いた。
「構わないよ、あんたならいい用心棒だ」
翡翠は再び手を差し出した。
「参りました、我が名は蒼也。我が刃、ぜひとも君達に捧げよう」
蒼也は手をとった。
――戦いが一つ、終わったのだ。
☆ ☆ ☆
その後、パトカーのサイレンが聞こえあわてて逃げた僕達は駅前のファミレスへと移動した。
「海水でベットベトねー、シャワーでも浴びたい気分だわ」
「ああ、一休みした後、体を洗い流そう」
二人とも、そんな目で見ないで、蒼也君に勝つにはこれしかなかったんだから。
ああもう店員がすごく嫌そうな顔をしている。
「それにしても驚きよねー、お兄さんのスキル。今日だけでも驚いてばっかりだったわ」
「そうだな、スキルの定義、いままでの常識を覆すような面白いスキルだった」
「そうかな? 僕自身はあまりスキルを使いたくなくていままではあまり使ってこなかったんだけども」
うん、そうだね。......ここで話す事じゃない。
「そ、そういえばこのチーム名を決めない?」
「チーム名?」
今、明らかに朱里さんが気を使って話題を変えてくれた。
「単にモチベーションの問題だけどいいかな?」
「別に俺は構わんぞ」
「僕もです」
チーム名か、僕のネーミングセンス的にほかの二人に任せよう。
「テロリスト真犯人討伐隊なんてどうだ」
「だめよ堅すぎるわ、能力者キレキレパラダイスなんてどうかしら」
訂正しよう、この二人のほうがやばかった。
「スキル使用者、そこからとってアンイコールなんてどうかな」
僕は少し恥ずかしいが提案してみた。
「不平等者......いいじゃないか!!」
「ええ、それなら言いやすいしね」
しかし提案した僕は少し考える。
「それだと能力者のテロ集団みたいに見られちゃうかもしれないですよね」
「ふむ......」
「あぁー確かに」
僕は紙にunequalと書いた。
「ユニコール、なんてどうでしょう? 読み方を少し変えて」
「なるほど!!」
「いいんじゃないか?」
これで僕らのチームとしての活動は始まった。
最初はたった一つの事件、テロリスト殺害事件を追うだけの集団だったのかも知れない。
人は生まれながらにして平等ではない。
しかしいずれ動き出す。至高の能力者達の集団、ユニコールが。
築山朱里のスキル解説コーナー
名前:百面紙
ランク:?
能力:触れたものを紙にしたり元に戻すことができる。
①触れる体の箇所は何処でもよい。靴程度の厚さは貫通して能力が発動できる。
②触れたものが正方形の一般的な折り紙のサイズになるか、大きさを維持した状態で紙にするかを選ぶことができる。
③紙を折りたたんだり、破ることで中の物体もその状態になる。
④本来紙であった物も実体化が可能である。
⑤規模や紙にできるものの範囲は本人にもわからない。よって『成長』するスキルである。
朱里コメント:本人が説明するのが恥ずかしいからって私に丸投げするのはどうかと思うのよ。でもまああえて言うなら謎が多すぎてわからない、が正解だと思うわ。お兄さんが悪人じゃなくて本当によかったわよ、だって使い方次第で世界すら支配できそうなスキルだもの。