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ザ・ユニコールワールド  作者: クレシアン
兄弟の旋律
37/41

クエスト207:仲間


 拳を顔面に叩きつける。

 顔が歪むほどに綺麗に入ったストレートは、僕の拳も痛くなるほど強烈なものだった。

 

「ぐはぁっ!!」


 その瞬間、腹部に蹴りを入れられ身体をくの字に曲げた。

 痛い、さすがは兄さんだ。顔面を殴られた後にこんな蹴りを出せるなんて。

 でも怯まない。決着をつけて紫苑を病院へ運ぶんだ!!

 

「っダラぁ!!」

「甘い!!」

「ぐぅ!!」


 再び殴りつけようと思った手を掴まれて背負い投げされる。

 背中にジーンとした痛みが一気に広がった。

 

「ックソが!!」

「!?」


 僕は叩きつけられた瞬間兄の腕を引き寄せ頭突きを喰らわせた。

 兄さんは驚いたのか対策をしてなかったのか鼻血が僕の顔に掛かった。

 

 軽く吹き飛ばされた兄さんは僕を睨みつけている。

 

「そうだよ兄さん。昔の兄さんはそうやって僕と本気で向かい合っていた。

なのに何故!? どうしてこうなってしまったんだ!!」

「どうしてこうなった? お前がそれを言うか!! 父さんに選ばれた!!

お前がそれを言うのかッ!!」


 二人はまるで子供の喧嘩のように各々の身体に拳を叩き付ける。

 技術も計算もなにも無い。粗野な攻撃だけが体重をささえている感覚だ。

 

 しかしその捨て身にも終わりが訪れる。

 


「「うぉぉぉぉぉ!!」」


「ぐあああぁっ!!」


 二人の拳が同時に顔面へ当たる。

 僕は意識が飛びそうになるのを必死に耐えた。

 

「くぅ!!!! 兄さん......!!」

「翡翠......!!」


 互いに肩で息をするくらいの辛さを味わっている。

 ダメージはほぼ互角。しかし普段から鍛え、武術をしている兄さんにはまだ余裕があった。

 

「お前さえぇぇ!! お前さえいなければぁぁぁ!!」

「がはっぁぁぁ!!」


 避けるより早く届いた兄さんの蹴りが僕に届く。

 世界がぐらりと回る。

 

 苦しい。

 このまま倒れてしまいたい。

 

 自分が今まで怠惰で自分を高めることに関して手を抜いていたかがよくわかる。

 

「おおおおおお!!!!」


 違う。

 今までじゃない。

 『今から』全力を出すんだ。『今』兄に勝つんだ!!

 

「くっ.......まだやるかぁぁ!!」

「おらぁぁぁああぁぁぁぁ!!?」


 瞬間、僕は身体がグラつきよろけた。

 しかしそのおかげで兄は僕の手を掴み損ねた。

 

「ぐぅぅあああ!!!!」



 身体が浮くほどに貫いた僕の拳は兄を軽々と吹っ飛ばした。

 以前、モーネを浮かせるほど強く殴りつけたことはあったが兄さんはモーネより倍の体重はあるほど筋肉体型だ。

 しかし肋骨が軋み、あるいは折れたかもしれない威力が

 

 どちらにせよこれで決まった。

 

「......どうだアニキ!! 僕の、俺......の勝ちだ!!」


 運も僕を味方していた。

 以前もわからなかった。何が、僕が正しいのか。

 

 運が命を救うことが運命というならば僕は信じよう。

 

 僕は、正しい。

 

 だから勝った。

 

「認めるよ......お前は強い...だが約束通りお前を殺すのは......俺だ!!」

「!!」


 兄さんが吹っ飛ばされた先には朱里さんがいた。

 よろけながらも兄さんは朱里さんの懐からスキルカードを取り出した。

 

「まさか......それは...」

「『封印』のスキルカード......お前は思っただろう、運が味方をしたのは......自分が正しいからだと。

けどな......俺も正しいんだ!! 俺だって正しく在り続けたんだ......!!」


 兄さんはスキルカードを破った。

 再び覇気が宿る、スキルが発動する。

 

「俺を見ろ!! 兄として最後の命令だ!!」



 時は恐らく止まるであろう。

 『刻の眼』は恐らく発動するであろう。

 

 それでも僕はこう言った。

 

 兄の言葉に従った。

 

「うん、見るよ......ただしそれは僕だけじゃない」

「ッ!?」



 兄は今のいままで気がつくことは無かった。

 無論僕もだ。それほどに熱中していてくれたのだろうか。

 

 確かにそれは兄として最後の命令であった。

 

 

「馬鹿な......これだけの...人数をこの時間で......だと」

「朱里さんが.......持っていたんだ。これをリアルタイムで流していた......」



 朱里さんの懐から取り出したのはもう一つの携帯電話だった。

 特殊部隊が僕達を囲んでいた。横に、縦に、奥に。

 これだけの人数の包囲。これは明らかに兄の能力を対策したものだった。

 

「朱里さんは......お前の能力を知った上でこの世全ての人に音声を届けていた......

もう誰もお前を......見逃すことは無い」

 

 兄さんは膝から崩れた。

 僕の能力の封印が解かれているのがわかる。

 兄さんはもがくように頭を抱える。

 

「やめろ......俺をそんな眼で見るな......!!

やめろぉぉぉぉぉぉ......!!!!」

「!!」


 兄さんは僕に脇目も振らず僕に突進した。

 能力を全開で発動したためか僕は身動きが全く取れない。

 特殊部隊の方々も僕に被弾するのを恐れて硬直した。

 

「落ち着け、翡翠」

「なっ......!!」


 僕はこの瞬間周囲の身動きが取れないのを理解した。

 蒼也さんが、今、時間を静止させたのだ。

 

「この方々の心配蘇生のおかげで助かった。もう俺は大丈夫だ。

紫苑も救急搬送されたらしい」

「くそっ!!くそくそくそっ!! 動けよ!!」


 兄さんは僕の目の前で身体を震わせる。

 蒼也さんのスキルは更に成長していて、対象のみが身体が動かないように進化していた。

 

 これは後から聞いた話だが蒼也さんは意識の中で三途の川を見たが、川を凍りつかせるまで自己トレーニングしていたらしい。全く末恐ろしかった。

 

「しかし翡翠。殺すだなんて本気で言っているのか?

お前はお前のやり方がある筈だ」

「......」


 そうだ。

 目の前にいる兄には制裁が必要だ。

 法で裁かれるにしてもこの被害だ。必ずや死刑になってしまうだろう。

 

「『百面紙ジ・アンタッチャブル』切り札......!!」

「やめろ......何をする!! 俺は兄だぞ!! お前よりずっと優秀で、この世界に価値がある存在だぞ!?」


 そうだろう。

 怠惰な僕より兄のほうがよっぽどこの国に貢献していけるだろうな。

 

 でももう決めたんだ。

 自分の価値は、仲間が決めてくれた。

 

「この世界は平等じゃないから、自分の価値なんて自分じゃ決められない。

さようなら兄さん。安心して。ずっとこの世界で見ててやるよ」




――芥川業。紙の世界に囚われ戦闘不能。 


兄弟喧嘩、これにて閉幕

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