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ザ・ユニコールワールド  作者: クレシアン
兄弟の旋律
31/41

クエスト201:最期

最終章です。

短い話ではありますが、よろしくお願いします。


「ぐうぅぅ!! がはっ」


朱里の腹部に深く突き刺さるナイフを業は引き抜く。

地面に転がる朱里は痛みで立ち上がることもできない。


「正直安心したよ。あの能力者達のなかでは君が一番脅威になりうる可能性があったからね」

「なるほど......油断したわ。げほっ......あなたの能力がまさか......意識を操るものだとは」


 朱里はどくどくと溢れ出る自身の血を見て反撃を諦める。

 そんな朱里を見下すような視線を取る業は彼女の手を取った。

 

「ッ!!」

「倒したからって油断すると思ったかい? 残念ながら破壊させてもらうよ」


 彼女の手の裏に隠されたスマートフォンを取る業。

 しかし着信先が翡翠のものだと確認するとそのまま取った。

 

「やはりお前は兄に逆らうのか。......また逆らうのか」

「朱里さんは大丈夫なのか!? 兄さん、彼女を早く病院に!!」

「それはできない。さあ朱里さん、別れの言葉を言ってもらおうか」

「やめろ!! やめてくれ!!」


 叫びにも似た翡翠の声を無視する業。

 一瞬のような、それでいて長いような沈黙の後、ただ一言だけ朱里からの言葉があるだけであった。

 

 そう、ただ一言のアドバイスを。

 

 

「目を合わせてはだめよ! 敵のトリガーは――」


 

 朱里の最期の言葉は無慈悲にも一つの銃声にかき消された。

 

「哀れな女だ。最期まで俺に背くとはな」


 

 通話は此処で途切れている。

 


☆     ☆     ☆


 

「いてて......」

「くっ......皆無事か?」

「何とか......」


 朱里に突如突き飛ばされた3人は擦り傷こそできたもののなんとか崩れた瓦礫には巻き込まれなかった。

 

「朱里さんがいない!!」

「朱里は俺達を突き飛ばしたようにも見えた。恐らく爆発に気がついたのだろう」

「じゃあ朱里さんを探さなきゃ!!」


 そんなこんなで埃を払う3人。

 朱里なら音を取れるだろうと考えたので叫ぼうかと考えたがその前に翡翠のスマートフォンに着信があった。

 

 掛けてきた相手は朱里。

 翡翠は迷うことなく着信を受けた。

 


「正直安心したよ。あの能力者達のなかでは君が一番脅威になりうる可能性があったからね」

「なるほど......油断したわ。げほっ......あなたの能力がまさか......意識を操るものだとは」


「!!」


 翡翠は朱里の他に声が聞こえ、それが業のものであることを一瞬で理解した。

 

 しかし朱里の様子がおかしい。

 途中で聞こえた咳も普通とは思えない異様さがあった。

 

 もしかして。翡翠がそう思う前に電話に相手が出た。

 もはや聞き飽きた、兄の声だ。


「やはりお前は兄に逆らうのか。......また逆らうのか」


 軽い怒りを帯びたその声に一瞬怯む翡翠だが直ぐに聞き返した。

 

「朱里さんは大丈夫なのか!? 兄さん、彼女を早く病院に!!」

「それはできない。さあ朱里さん、別れの言葉を言ってもらおうか」


 非情にも無視される翡翠の思い。

 翡翠は必死に叫んだ。

 

「やめろ!! やめてくれ!!」


 いま此処にいるのも。

 兄と、父と戦うきっかけを与えてくれたのも。

 蒼也さんと共に戦えるのも。

 紫苑の気持ちに応えることができたのも。

 

 全て朱里さんのおかげだった。

 『きっかけ』は全て彼女のおかげだった。

 

 

「目を合わせてはだめよ! 敵のトリガーは――」



 彼女の最期の言葉は銃声でかき消された。

 

「朱里さん!? 返事をしてくれ!! おい冗談だろう!!」


 ガタン。恐らくスマートフォンを破壊された音。

 そして彼女の命が。ガラスでできた物が破壊されるような、失われた音だった。

 

「......お兄ちゃん?」


 紫苑は泣きそうな顔で、声で翡翠に聞く。

 蒼也は腕を組み、何も言わずに下を向いていた。

 

「......朱里さんだったんだ。僕にテロリスト事件の真相を暴くために誘ってくれたのは」


 翡翠も紫苑につられて泣きそうな声で続けた。

 泣きそうな声を掻き消すような、叫び声で。

 

 

「業ぁぁぁ!!!! てめえは僕が、絶対にぶちのめす!!!!」


 

 

 全てのきっかけとなった凄腕記者の人生はここで潰える。

 その人生は余りに短く、しかし常に『何か』を追う狩人のような人だと後に語られる。

 

 スキルについての記事を出したのは彼女が最初であった。

 

 そして、最後でもあった。  

 

 

 ――築山朱里、死亡。


作品を書くに当たって、死者というのは必ず出すタイミングがあると思います。

しかし僕にとっての味方の死は彼女が初めてです。

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