クエスト110:母
今回はなぜか長めになってしまいました。
調節は難しいですねえ。
「ぐうっ!!」
刀を回避したはずが右腕を突き刺した。
俺は馬鹿な――
「くっ......隠しナイフか」
「反応も回避スピードも悪くないけどまだまだね。あなたのスキルは単調すぎるわ」
言われ方に苛立ちを覚えるが間違いではないことにさらに苛立つ。
瞬間移動......いったいどうすればよいのだ?
「どうすればいい? きっと貴方はそう考えているでしょうね」
「!!」
女は腕を組み指を俺に向けた。
こいつ、何を言っているんだ?
「あなたと私の差は歴然。その理由はアタシのスキルは完結しているから。わかるかしらん?」
「完結だと? 何の話だ」
「わかりやすく言うならレベルよ。あなたが50レベルならアタシは99。そういうことよ」
なるほど、スキルを扱う内に自身のスキルが成長している場面に会うことがあった。
スキルは成長する。博士直属の人間が言うのなのだから間違いない。
この女のスキルは完結している。それはつまり他の兄弟達にも言えることだろう。
「どんなに強いスキルを持とうが『完結されている力』に敵うことはないの。
今頃他の人達も苦しんでいるでしょうね」
......やはりか。
だがその他にも違和感がある。
戦い辛さというよりも自分の動きの鈍さだ。
誰か何処かで、何かを操作されている。そんな気がする。
「悪いけど考えさせている暇も与えないわ、先ずは貴方から――」
「ッ!!」
突き刺された右腕を掴まれた。
まずい! 体温を上昇させて――!!
「刃を奪う」
「があああああっ!!」
視界が暗転する。
腕が熱い。痛い。何が起きた!?
ああこれは。
腕を引きちぎられた。
ショックか血液の不足か。
俺の意識はここで消えた。
☆ ☆ ☆
目が覚める。
意識が急にはっきりとした彼はこの場所を病院だと考えた。
しかし違う。
まるでファンタジーの城の様な綺麗な壁。
ガラス張りの窓。
そして玉座。には女の人?
「あら? お目覚めですか。皆様」
皆様? 僕の他に誰かいるのか?
辺りを見回すと見慣れた二人がいた。
え? なんでここに――
「紫苑!? それに蒼也さんも! どうしてここに?」
「お兄ちゃん!? どういうこと!?」
「まあ落ち着けよ二人とも。どうやら俺達はあの人によってここに連れてかれたようだ」
蒼也さん指先には先ほど僕達を呼んだ女の人が。
......え?
なんで彼女がここに? 見間違いじゃないのか?
思考がまとまらない。目を擦るが景色は変わらない。
まさか本当に!?
「お母さん!?」
紫苑が駆け寄り声を上げたことにより意識がはっきりする。
間違いない。彼女は――
「アリス母様。なぜここに」
いやそんなことではない。なぜ母さんが10年前僕達と別れた『あの姿』のままで居るんだ!?
「いろいろ聞きたいことがあると思いますが、残念ながら貴方達の姿はこちらからはわかりません
これは私がスキルによって移動した擬似空間。日本では竜宮城と呼ぶべきでしょうか」
「竜宮城......」
蒼也さんは窓から外を確認した。
僕も同じように外を見るとなんと海に囲まれていた。
これはいったい!?
「ふふ......あせらなくても大丈夫ですよ。この城だけは私が作り出した幻想のモノ。
そして紫苑。貴女の身に危険が迫った時にこの空間に移動するようにスキルをかけていました」
「なるほど......しかし何故僕達も移動したんだ?」
「紫苑、そして彼女が信頼している人間にも作用される能力付ですがいかがですか?
今貴女が一人で居ることも複数人でいることもあるでしょう」
つまり紫苑に施した術が僕達にも作用されたのはこの為か。
海の底ならば誰にも見つかることなく会話できる。
僕の紙の世界が虚無だとするならば母様の世界は幻想。隔離された世界だ。
「しかし危機に陥った貴女にできることはただ一つ。
母として貴女を激励することのみ」
「うん......」
「紫苑、貴女はとても優しい娘。しかしいつか誰かに牙を向けなくてはならない時が必ず来ます。
それは芥川家の使命。辛い時は逃げても、降参してもいいのですよ?」
母様の顔は慈愛に満ち、僕の『知らない優しさ』が現れていた。
「でも、誰かを守る戦いなら必ず戦い抜きなさい。たとえ貴女の命が燃え尽きようとも、後悔のない死ほど幸福なものはない」
「ッ!!」
ああ、それでいて厳しい。これも僕が知らないものだ。
「そして翡翠君に伝えておいて下さい。貴方の母を守ることができずに悪かったと」
「とんでもないよ、母さんはそれこそ僕を守って死んだのだから」
こちらの声は届かない。
それでも自然と返してしまった。
「貴方は母に似て難しい性格だから苦労することが多いでしょう。
だから仲間を大切にしなさい。貴方にはきっと大切な仲間ができるはずです」
「......はい!!」
いますよ。大切な、すっごい仲間が。
「それと私はイギリスに居ます。困ったことがあったらいつでも尋ねなさい。
母に頼らない子なんてあってはならないですから」
母さんはそういうと右手を天に高く挙げた。
優しく厳しい表情から一変し真剣な表情に。そして
「『汝に光在れ』我が最愛の娘とその仲間に健闘を!!」
彼女が言い放った瞬間、周囲が光に包まれた。
「傷が治っている......!?」
「本当だ!! 母様、貴女のスキルは一体......!!」
腕を確認する蒼也さんを余所に僕は母様を確認する。
しかし彼女は光に包まれついにその姿を確認することができなかった。
「母さん!! 私、戦うよ!! でも死なない! 全部終わったらそっちに行くから――」
姿は見えないが今、わずかに笑顔の母の姿が確認できた気がする。
世界が崩れる。
しかし恐怖はない。
もう一度、あの戦場へ
☆ ☆ ☆
「あんたらの仲間、どうやら意識が無いらしいぜ
決着が着いたみたいだな」
「っ!?」
セイアッドから告げられた事実に朱里は動揺する。
そして不意に、視線がトランプへと移ってしまう。
「っしゃあ!! 揺さぶり成功!!
これでジョーカーの位置は把握できたな」
「......なっ!?」
セイアッドは舌を出し指を立て机に身を乗り出した。
まさにトランプのジョーカーの様な、道化師の笑みを浮かべて。
「残念だが手元のカードをシャッフルするのは無しだぜぇ!! 真のギャンブラーっつうのはわずかな視線も見逃さないのさ!!
ただしあんたらの仲間が意識不明なのは事実だ! このまま仲良く全滅だなあ!!」
朱里は同じく舌を少し出しウィンクをした。
「悪いけどあなた、私の仲間を甘く見すぎよ?」
「アァ!?」
そしてジョーカーの位置のカードをわかりやすく浮かせてみせた。
「そして少なくとも私は今この瞬間、あなたに勝利した」
芥川翡翠のスキル解説コーナー
名前:蜂の巣
ランク:☆☆☆☆☆
能力:対象を半径500以内に瞬間移動させることができる。
①瞬間移動する物の重さは5kgまで。
②しかし自身を移動させる際は無制限である。
翡翠コメント:超能力と聞いて思い浮かべるものの一つに瞬間移動。これは必ず入るだろう。
それほどに魅力的で誰もが思い浮かぶこの力は言うまでも無く絶大だ。
扱いやすさと威力を視野に入れると僕が今まで見た中で一番強力なスキルじゃないかな。




