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桜雨

作者: 表 裏淳

 月の光が中庭にある大きな桜の木を照らしている。

 ここは最高だ。真上から雫の乗ったピンク色の艶やかですらあるサクラを一望できる。

 そう言えば、桜の花言葉って実は種類によって違うんだって。


 ソメイヨシノは「純潔」シダレザクラは「優美」ヤマザクラは「あなたにほほえむ」。


 恐らく、大体の人が知っているのはソメイヨシノの「純潔」でしょう。

 さて、ここで思うことがあります。


 「花びらが散ってる時、その桜は「純潔」なの?」


 意味がわからない。


 「散る時は枯れる時、シーズンが終わった時でしょ。受粉をしたら、もう清い桜じゃなくなってるんじゃない?」


 人の価値観と桜の価値観はまるで別物だと思うけど。


 「私だって、もう清い乙女じゃないけど、心は『純』よ。でも、桜は散っちゃったら、ただの木。誰にも見向きされないそこらの名前もわからない木と同じ」


 現実だね。シーズンの間はちやほやされるけど、過ぎればそんなことは無くなる。

 だけど、ただの木でも、見向きされないとしても、ちやほやされなくても、その桜は桜で、君は君。

 何にも変わることなんてない。いや……一つだけ変わる。


 「そうね。一つだけ変わること、あったわね」


 桜は、別の花を咲かせる。君は優美を授かる。


 「ホント、綺麗。アナタはいつもそこから眺められるなんて、羨ましいわ」


 でも、君はここに連れてこないよ。だって、まだまだ君は咲いていなくちゃいけないから。


 「ズルいわよ。自分だけ」


 へへっ、そうだね。でも、君だってズルいよ?


 「お返しよ。私はこれからいーっぱい笑顔になる。アナタの分まで優美と過ごしてやるわ」


 うん。でないと、また、こうして来るから。お願いだよ?


 「分かってるわよ。ほら、さっさといく」


 はいはい。じゃあね。



 「誰と話してたんですか?」

 「あら、看護師さん。ええ、ちょっとね」

 「安静にしててください。その方がその子の為ですから」

 「大丈夫よ。笑い足りない人が私を微笑ませたくてきただけだから」

 「えーと? よくわかりませんけど、とにかくお体に障るようなことだけはやめてください。あなたまで亡くなられてはその子があまりにも……」


 「だから、大丈夫よ。私は優美とずーっと一緒だから」



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