雷魚竜と雷鳥
赤茶色の幹をもつシダ植物のような、それにしては見上げるような背の高い植物がポツリポツリと生えている。見るとこの先さらに密集して、林のようになっていた。
そんな緑濃い湿地帯も、深い所は俺の身長よりも水深のある地形に差し掛かる。なるべく水中に沈まない場所を選んで歩くが、それでも膝下まで埋もれるようになってきた。
サバ姉監修とはいえ、素人のつくったブーツと服は、容赦なく水を入れて、グシグシと音を立てている。
だがそれよりも、先ほど聞いた雷魚竜というモンスターの事で頭が一杯になっていた。
どんな攻撃をするのか? 名前からして、雷系の魔法でも使うのか? と想像しながら歩いていると、
〝雷魚竜もだけど、そいつだけじゃないからね。竜種の生息地って事は〟
その被食者もいる?
〝そうね、ほら、そこにある穴〟
サバ姉の指摘に、前方を注視すると、水面下に拳大の穴が開いていた。警戒して歩みを止めると、先端が球になった褐色の触手が水面上に伸びてくる。
〝貝の一種、痺れ巻貝よ。殻の一部から猛毒の棘を射出して、痺れた獲物を溶かして食べるわ。あいつの半径2メートル以内には入らないように〟
おお怖。生きながら溶かして食べられるなんて、想像するだに恐ろしい。あれも雷魚竜のエサなのか?
〝そうね、あれの居る場所には、雷魚竜が出没する確率が高いわ。あとは上空のあれ〟
と言われて上空を見ると、大きな翼を広げた、鷹のような鳥が円を描いて滑空していた。
〝雷鳥よ、あれは雷魚竜の魔力を吸っている寄生モンスターね〟
見ると時々青く光って、地面に雷を走らせている。それはまるで風を受けて飛ぶ凧のようだった。
〝あれが沢山寄生してるほど、大きな雷魚竜の証よ。魔法を収納できるあなたには、あいつらの方が注意すべき敵かも知れないわ〟
と言う。なるほど、雷魚竜というのが、魔法主体の攻撃を仕掛けてくるならば、上空から狙ってくるサンダー・バードの方が、手強いかも知れない。
何せ指輪で魔法を受けることに関しては、クレイ・ハンドや南風獅子、沼狼の泥弾の件で信頼性が高いが、不意打ちで他の部位に攻撃を受けた時、どれだけ耐えられるかは、全く分からないのだ。
まあ雷魚竜の姿形や、どんな攻撃を仕掛けてくるかも分からないのだが。
〝それはサンダー・バードも同じでしょ? とにかく上空の目に止まらないように、なるべく身を隠しながら進みなさい〟
はい、サバ姉。俺は疲労に震える手をシダ系大木の幹につけながら、ゆっくり迂回するように進んだ。足元にも気をつけなければならないから、確かに生存術の難易度も上がって、少し進むだけでも結構疲れる。
すると、少し進んだ先に、フワフワと浮かぶ光の塊が見えた。あれは?
〝あれが雷魚竜よ、まだ幼体なのか、成体になりたてなのか? サンダー・バードはとりついてないみたいね〟
よく見ると、細長く白い体が青い雷をまとって、時々光輝いている。身をくねらせて空中を泳ぐように進むそれは、まるで巨大な魚のようだった。薄い体を覆う鱗が光を反射すると七色に輝いて美しい。
すると、突然身に纏う雷の量が増えて、空気をバリバリと切り裂いた。バレたか? と身構えていると、反対側から巨大な雷魚竜が現れて、火花を散らしてぶつかり合った。
〝あぶない! 巻き込まれるよ〟
サバ姉の警告と同時に、視界を真っ青に染める雷撃が襲いかかってきた。