魔法コレクションとデメリット
大量の泥弾が飛んでくる。それは泥だんごなどという、生やさしいものではなく、まともに後頭部に当たれば、首の骨をやられるのではないか? と思うほど、強烈な飛来物だった。
それを走りながら左手で受ける俺。後ろから撃たれたと思えば、今度は右、その次は左と、次々と射出される泥弾を、サバ姉の指示を受けながら、指輪に収納していく。
沼狼も追走してくるが、教えてもらった通り、足は遅いらしく、全力で逃げる俺に、ついてこれるものはいなかった。
だが数がとにかく多いのだ。数匹の沼狼を振り切ったと思えば、視界のはしに、数個の盛り上がりができ始める。
魔力を溜め込んだ沼狼の体が一瞬痙攣すると、体表から泥弾が発射されて、避けきれないものを吸収するのだが、その度に頭の中で、
【同種の魔法を吸収しました、合成しますか?】
という表示が現れ、はい、と思考すると、
【泥弾(9)】
と数字が上がっていく。そしてもう一つの泥弾を吸収した時、
【泥弾の魔力が飽和しました。上位魔法の硬化泥弾に置換されます】
と表示が出る。
俺は逃げるのに気を取られてそれどころではなく、息を切らせながら、走りに走った。
何せ湿地帯である。それでなくても足を取られるのに、足元には次々と泥弾が打ち込まれ、よけ損ねた弾がブーツに当たり、転ぶ事数度。
一度などは転んだ地面に、ちょうど湧き出した沼狼の粘つくキバが飛び出してきて、必死にサバ姉を突き込む事で難を逃れた。
吸収した累積で硬化泥弾がもう一つ作られ、もう一つ泥弾(8)というのが表示された頃、ようやく沼狼の群れをふりきった俺は、荒い息をついて地面にへたりこむ。
〝沼狼の生活圏を抜けたって事は〟
新たなモンスターの生活圏って事?
〝そう、その通り。指輪の中身をちゃんと把握している?〟
泥まみれのサバ姉をぬぐってやりながら、便利な指輪を想起すると、
*食料【りんご、五穀米、イカ、柿】
*魔法【南風、硬化泥弾、硬化泥弾、泥弾(8)】
*武器【南風鞭】
*薬【病気治癒1/2、傷治癒、怪力、言語】
うん、こんな感じだね。泥弾(8)とあるが、8回撃てる訳では無く、8個分の威力の泥弾を撃てるらしい。
さらにカバンには、魔石と胆嚢がある。胆嚢は食料か薬に含まれないかな? と思ったが、また死骸という欄が増えただけだったので、そっとカバンに戻しておいた。おかげで手とカバンが生臭い。
〝いいかい? ここから山の麓までの範囲は、沼狼なんかよりも、もっと危険な雷魚竜の支配圏よ。数こそ少ないが、一筋縄ではいかないから覚悟しな〟
雷魚竜……雷? ドラゴン? なんか強そう。
〝お前の思ってるようなのとは違うけど、いきなり死亡もありえるからね。とにかく戦おうなんて事は考えずに、逃げの一手だよ。あと魔法のストック限界は?〟
5つ、そして今4つ保有してるから、あと一種類しか吸収できない。
〝そう、そこら辺の事は自分で管理しないと、咄嗟の時に間に合わなくなるからね。そろそろ生存術もレベルアップしていくよ〟
サバ姉の言葉に、指輪をなぞっていた俺は、ゴクリと唾を飲み込んだ。