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モンスター・トラップ

 俺は後になってから、本気で殺しにくる人間との戦闘の恐怖に、南風獅子ブーツの足元が震えて止まらなかった。


 時間にしたら五分そこそこの攻防だろうか? しかし精神的な負荷としては、数時間運動したのと同じくらいに疲れた。


 〝左手の指輪の強みは理解した?〟


 というサバ姉に、うん、こいつが無かったら最初の一撃でやられていたかも知れない。と素直な感想を述べる。


 〝けど頼りすぎも良くないわ。避ければすむところを、収納能力に頼ると、いざという時に中身がいっぱいという事もあるし〟


 うんまあ確かに、指輪の能力にあてこんでいる部分は大きい。でもおかげさまで無事撃退できたから、良しとしてほしいな。


 〝やつらはまた来るよ、先回りして罠を張るはずさ〟


 とサバ姉が言うのと、


「もう少し先方でまた襲ってくるはずよ」


 音無の声が同じ内容を告げた。こうなるとかなりの説得力がある、襲撃に備えるべきだろう。


「彼らも被害を受けました、引き返すのが定石ではないですか?」


 とヘタちゃんが尋ねると、


「風精の監視を受けている。我らの呼吸すら全て把握されていると思え。ここまで強い束縛ができるのは、距離的にもそう遠くはない証拠だ」


 と音無が警告を発した。


「じゃあ風の方向には気をつけろ。奴らは毒使いとしても有名だ。風上を取られると苦戦するぞ」


 ナナの忠告に、風上方向を注視する。だが先ほども全然気配を捉えられなかった俺には、何も捉えられなかった。


「どうやったら見分けられる?」


 と音無に尋ねると、


「違和感があるものはしばらく様子を見ろ。勘に従うよりも場数がものを言う。緊張状態下の人間というものは、手足がすくんで思考も萎縮する。それは敵とて同じ事、つまり行動パターンは読みやすくなるということだ」


 と教えてくれた。なるほど〜、経験則かぁ……って、俺に一番足りないものじゃん! こればっかりはすぐに鍛えられるものでもないし。まあこっちにはサバ姉というレーダー役もいる事だから、お任せしつつ修行に励もう。と思った。


 もはやジュリンの能力検証などという余裕は無い。集落までの道のりを、なるべく早く、静かに引き返せるようにひたすら足を動かし続ける。

 一人敵の遺体を担ぐミルの背中が、筋肉の隆起に大きく見えた。





 *****





 それは最初遠間に光る金属片のように見えた。それが明確な意思をもってこちらに近づいてくると、十羽ものサンダーバードの群である事が分かる。


 その頃には空中を泳ぐ雷魚竜の全身も目に入り、あまりの巨体に避難も忘れて見入ってしまった。


 〝まずは虫矢を放て!〟


 サバ姉の号令に、指輪の十字弓の装填を黒矢から虫矢に代えて、具現化する。機械式の短弓は、はち切れん威力をたたえる板バネを、軽い引き金で止めていた。


 やっくりと照準器を合わせ、距離の分気持ち傾斜をつけて矢を放つ。


 空を切って飛ぶ虫矢は、純白に輝く雷魚竜の鱗に当たって、体内に呪い虫を解き放った。


 暴れる雷魚竜は、メチャクチャに雷撃を放つ。放電の端に左手を向けると、*魔法に雷撃(4)が回収できた。


 その時、雷魚竜の影から沼狼が現れると、数十匹の沼狼が大声で吠え立てながら走り寄ってくる。皆一様に目を血走らせて、雷撃を受けても意に介さず駆けてくる。


 〝毒に侵されているよ〟


 サバ姉の警告も早々に、体表から泥弾が放たれた。ミルとナナがそれに弾き飛ばされ、湿った地面に倒される。


 俺はヘタちゃんを庇うように、これまた左手で魔法を受け続けた。

 

 〝このドサクサに……〟


 分かってる、明らかに仕向けられたモンスターの襲撃、これの意味するところは、


 罠だ〝罠よ〟


 初めてサバ姉と意見が寸分たがわずに合った。沼狼をどう操ったかは知らないが、その体の間から、風の民が接近してくるのが見て取れる。


 〝さっきの槍に気をつけて、乱戦になったら危ないよ〟


 サバ姉の忠告通り、音もなく近場に寄ってきた大男が、至近距離から手投げ槍を投擲してきた。

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