表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/78

この世界なめるんじゃないよ!

「山と草原に黒呪が握られる時、現れし者にこの箱を与えよ」


 音無がポツリと呟く。それを聞いたヘタちゃんが、


「迷い人様の予言、ですか?」


 と尋ねると、コクリとうなずいた。


「封印の箱に添えられた、な。明らかにこの時点を指した言葉だろう。これを受けて占婆達もそれの開封を決めたのだ。もっとも、私が黒呪を受けた時点で、責任を感じた占婆自身が、一度開封を試されたがな」


 ジュリンを見る目は、希望にすがるように、そして過去の出来事に対する遺恨に、鈍く光っている。


「つまり詳しくは分からないが、こいつがどうにかしてくれると期待しているわけね? 俺が現れて、ジュリンを装備した、この状況からすると、まんざら期待外れでもないと」


 俺の言葉に頷いた音無は、


「もちろん問題自体は山岳民、いや少なくとも呪術窟の指揮の元、私や周囲の仲間達が解決に乗り出す。だが肝心の所は〝それ〟任せになるだろう。お願いできるか?」


 ジュリンを真剣な目で見つめた後、地面に頭を擦り付けるほど頼みこまれた。うなじの送り毛が震えている、そこまで頭を下げなくても……


『もちろん! 任せろ』 〝確約は出来ないね!〟


 俺とサバ姉の思考がぶつかり、言葉につまった。何だよ? ここは格好つけるところだろ?


 〝そうした縛りをつけられるほど強いと思ってんの?

  その指輪の力もよく分かってないのに、なにをいきがるつもり? 格好つける、ハア? そんなんで生き延びられると思ってんの? この世界なめるんじゃないよ!〟


 おふ、凄え怒られた。まるで事務所の御局様おつぼねさまの新人いびりみたいな口調で、それかスクールカースト上位者が、調子に乗った下位者に楔を打ち込む容赦の無さで……時折浮かんでくるこの無駄知識は何だ?


 と現実逃避していると、自信無さげな音無と目が合う。ちょうど変な時に変な間が空いてしまったな……とても気まずい。


「善処します」


 咄嗟にでたのは、格好良いセリフとは真逆のヘタレ発言だった。それを聞いた音無は、アテが外れたように緩く口を開ける。ヘタちゃんも、俺のあまりのヘタレっぷりに、失望感が否めないのだろう、


「善処……ですか」


 と呟くと、気まずい沈黙の後、二人して退室していった。


 なんだい! 文句が有るならサバ姉に言ってくれよな!


 ゴロンと横になると、


 〝あれで良いのよ、出来ない事させてるのは向こうなんだから〟


 サバ姉の慰めともつかぬ慰めに、心落ち着かせた俺は、

 そのまま眠りの世界へと旅立っていった。





 *****





「何ですか? あれ。フワッとした性格だと思ってましたが、善処しますって……」


 半ば怒り、半ば呆れた口調のヘタが、並び立つ音無に抗議の声をあげると、


「善処、か。善処ねぇ……クククッ」


 小さな笑いを大きくして、ひとしきり笑った音無が、


「あ〜、おかしい。やっぱり奴は面白いな」


 まだ腹を抱えて「クックックッ」と含み笑いをした。怪訝そうな顔のヘタは、よく分からないと小首を傾げると、何故か上機嫌の音無の後を追って、呪術窟へと向かう。


 まだまだやる事は多い、実験は明け方まで続くはずだ。駆け出しのヘタは、これからの事を思うと、実践の場にようやく立てた境遇を喜んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ