固く硬く
音無とヘタちゃんと俺、三人で車座になる。その真ん中には俺の右手。珊瑚の指輪みたいな真っ赤な球を乗せた〝ジュリン〟ちゃんが視線を集めていた。例によって適当な名付けである。
〝私の時といい、そういうのは早いわよね〟
そうだ、こういうのはインスピレーションが大事だからな、呼び名は必要だし。
俺の思考を受けた指輪がドクンと脈動する。何となく意思のようなものが有るのか? よく分からんが、嫌がっている感じではないな。
「こいつと音無の黒呪、あの黒犬について、知ってる……いや、言える事を教えて欲しい」
俺の言葉に目線を上げた音無が頷く。ヘタちゃんは詳しい事情を全く知らないらしく、
「私も同席して良いのでしょうか?」
と音無に尋ねたが、
「既に少しづつ関わっているでしょ? 占婆様もご了承の上よ。狩に同行した時点でね」
と言われて納得した。これが彼女にとって集落の問題に関わる本格的なデビューなのだろう。そう思うと俺にも少し責任感が生まれるなぁ。集落とかにさほど愛着はもてなくても、いたいけない少女のためなら頑張れちゃうね。
「黒呪は……ありていにいうと、呪術によってこの地に溜まった廃棄物なのよ。人の手に負えないほど強力で、超自然的な、ね。それを一手に引き受ける仕組みが死告獣で、過去にそれを人為的に操作しようと試みた事があるわ」
と言ってヘタちゃんを見た。
「それは教わりました。双子の占い巫女のお話ですよね?」
「そう、ある時代に強力な呪術を操る天才双子が生まれたの。彼女達は迷い人以来のどの占婆達よりも強力な術を操り、黒呪の解明に乗り出したわ。そして利用しようとした」
音無の言葉に、黒呪が人為的に操作されたという状況と、双子という状況を考える。先ほどから黒呪が二人居ると、と言っていた……
「その過程で二人ともが黒呪にかかった訳?」
と俺の推測を述べると、
「そう、そして不安定な力が、誘引しあい更に力を強めた結果……」
音無は腹をおさえた手をギュッと手を握りしめて、
「異変が起きたわ。その力によって集落の半数が亡くなるほどの事件が起きたの」
冷たく言い放った。目線は自分の腹に注いでいる。自分の身にも黒呪があるのだ、他人事ではないだろう。それにしても半数って、それは集落の崩壊を意味するんじゃないか?
「壊滅状態で済んだのは、迷い人様の残した遺産が守って下さったから、らしい。もっとも双子の暴走も予見していたみたいだけど……当時の占婆が双子を惜しんで事態は悪化したそうだ」
そこもまるで音無の事のようじゃないか……俺も音無の腹を見つめる。やんごとなき理由とはいえ、腹に黒呪を抱えた音無と、黒犬の頭に取り憑いていた靄。
「あの犬が纏っていた靄は、黒呪で間違いないのか?」
と聞くと、コクンと頷いた。
「出会った時にはすぐ分かった。力が誘引し合うと、桁外れの力が生まれるの。あれは意識が飛びそうなほどの体験だった。次どうなるか? 私にも分からない」
なるほど、それで……
「こいつという訳か?」
真っ赤に色づくジュリンを突き出すと、
「その力にかけるしかない、それで無理ならば私は死ぬしかないんだ」
音無は消え入りそうな声で固く宣言すると、それを拒む無意識が拳を硬く締め上げた。




