呪魂の指輪
指輪の頂点で揺れたものは、色を変えながら複雑な輝きを放ち出した。それはランタンの灯りを反射したものではなく、内側から溢れ出てくる光の泡沫である。幻覚のように指輪の周囲で弾けたそれに、俺の意識は急速に吸い込まれていった。
気がつくとーー輝く世界の中に呆然と立ち尽くしている。俺と……サバ姉は握ってるな。
〝なんとか潜り込んだわ〟
と言いつつ、周囲をいぶかしむサバ姉の気配。俺も何事かと周囲を探るが、視界はプリズム状の乱反射でくらんでしまう。無理やり目を凝らすと、頭に鋭くさし込みがあった。
〝予見していたんだ、君が誰かは知らないけど〟
意外にもか細い女性の声が聞こえる。明らかにサバ姉とは違う念話、これは先代迷い人のものか?
〝君のことは分からないけど、私の子孫を助けて欲しい。そのために力を残しておくわ。詳しくは分からないけど、占いに出た通りの形にしておいたから……お願いね〟
割と気軽な口調である。一方通行のメッセージは、念じた者の想いだけが色濃く伝わってきた。それは口調に反して、母の温もりを連想させ、深く心に響いた。
ーー光が収まると、目の前の指輪に手を伸ばす。俺の唯一の能力《便利な指輪を使える》に合わせたという、先代迷い人の力。
一代でこの集落を創り上げた創始者が、子孫を思って残した遺産らしい。
占いと言っていた、俺や未来の事を知りえた予知能力。先代は俺など足元にも及ばぬ力を持った迷い人だったのだろう。
日本人だと言っていたし、会ってみたかったものだ。そうじゃなくても、日記とか、書き記したものでも良い。後で他に遺産が無いか聞いてみよう。
指輪を手にとってみて、どの指にはめようかハタと迷っていると、
〝収納の指輪が左だから、これは右が良いんじゃない?〟
というサバ姉の言葉に従って左手に持ち直した指輪を右薬指にはめる。リングのサイズはピッタリで、はまった指輪を見ると、石の部分にはくすんだ色の丸石がポツンと乗っかっていた。
その時、腕の血管を逆流するような、なんとも言えない鈍い痛みが心臓に消えていく。次に見た石は、鮮血の赤色に染まっていた。
「おお! これは正しく迷い人の呪魂! よく見せておくれ」
珍しく歓声をあげた占婆が俺の右手を取って、しげしげと眺める。リー師もヒョウ師も、音無までが右手に群がって、しばらく注目を集めた右手は、自由がきかなかった。




