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先代の遺産

 〝結局何なの? ちゃんと聞きなさいよ〟


 黒子汁の製造方法を学習したころ、占婆達も何かの解を得たらしく、安堵の表情で談笑しあっていた。それを聞きながら内心秘めたるものは、俺にもある。


 何があったのか知りたい。ヘタちゃんにお礼を言いつつ、気になる結果を聞けるかどうか? 占婆の元へと向かうと、


「ウムウム、ここまでは予想通りじゃて、ウムウム」


 俺を見た占婆が、薄い目を広げて告げた。


「結局何なんですか?」


 と詰め寄ると、


「ウムウム、簡単に言うとじゃな先代〝迷い人〟様の件じゃよ、ウムウム」


 実験のために力を使ったらしく、荒くなった呼吸を整えた占婆は、水を一口飲むとゆっくり息を吐いた。


「余りにも強すぎる力を残されたんじゃ」


 ため息とともに言葉を漏らす。そこには長年背負う重荷を感じた。


「その片鱗が……」


「さっきの水滴?」


「ウムウム、そうなるのう、迷い人様の力の素となる成分じゃ、ウムウム。念を込める前の無害な状態じゃが、それでも一般人が浴びると、あまりの力にやられるんじゃよ」


 皺がれた手を擦りながら俺を見る。謎めいた視線は、俺を貫通して虚空を見ていた。過去の犠牲者を思っているのか? やられるって死ぬってこと? それともさっきの肺熱のもっと酷い痛みに襲われるだけだけだろうか?


 〝やっぱり迷い人関連ね。今回はその次の段階への試験ってところかしら? にしても荒っぽいわね〟


 サバ姉の念に驚きつつ、深く同意する。肺に感じた熱は、生命の危機を想起させるほど強烈だった。


「じゃがこれで、お前さんが今回の件に向くと分かったのじゃ、ウムウム。血筋でもない、力だけではない、迷い人同士の運命とも呼べる繋がりじゃよウムウム」


 よく分からないが、先代迷い人の力がさっきの水滴だとすれば、それを受けて普通にしている俺は、何かに合格したのだろう。


「ウム、本来ならば集落会議にかけねばならぬ案件じゃが、ウムウム」


 と占婆がリー師やヒョウ師、音無を見回した。


「昨日見た無頭狗は黒靄の力を使っていました。我々の力と合わせてかんがえると、異常事態としか言えません」


 音無の言葉に、


「ウムウム、音無の腹に有る黒呪と、新たな死告獣候補の無頭狗、二つの黒呪が人為的な支配下にあるというのは……非常にまずいのう、ウムウム」


 占婆が同意する。音無の腹にある黒呪は人為的なものだろう。ならばもう一つは? あの頭の無い黒犬の事だろうか? ならば草原の獣である無頭狗を人為的に操れるのは……


 そこまで考えた時、草原の覇者の話を思い出した。


「草原の王、シンの介在を認めるしかないでしょう」


 リー師の言葉に一同が頷く。それを受けた占婆が立ち上がると、


「緊急事態につき〝開かずの間〟への立ち入りを許可する」


 と厳かに宣言した。

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