表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/78

肺熱

 水滴は目に見えて震えだすと、自身の振動で浮き上がってくる。それはまるで重力が反転したかのように、上に向かって雫が垂れるような動きをするとーー


 ポタン


 と空中に浮かんだ。


 表面の皮膜が七色の反射を見せるが、水滴自体は無色透明、その小指の先ほどの水滴は俺の目線まで浮かび上がると、パチンと弾けた。


 思わず目を閉じる。何かの飛沫を浴びたか? サバ姉!


 〝大丈夫、目を開けてごらん、何もないよ〟


 と言われて、恐る恐る目を開けると、確かにどこも濡れていない。だが次の瞬間、胸が焼けるように熱くなった。


 〝何!? 何も感知できないけど、毒か呪い!? 指輪すら反応できないなんて、どうなってるの?〟


 パニックを起こすサバ姉の声も、俺の中には入ってこなかった。とにかく息を吸おうとすると、肺が焼けるように痛い。


 呼吸がままならなくてうずくまっていると、熱は急速に引いていき、肺も痛くなくなった。


「うう……」


 涙目になって思わずうめき声を漏らすが、その声はいつもと同じだ。胸も喉も大丈夫、か?


 起き上がった俺に、結界の外では、


「オオッ」


 と感嘆の声が上がる。


 〝だまし討ち? ちょっと酷すぎるわね〟


 サバ姉の言う通り、何か一言あっても良いんじゃないか?


「ちょっと、試技にしては荒っぽくない?」


 普通に戻った俺が、占婆を見ると、


「ケヒッ、やはり大丈夫じゃろうが、しかし何が起こるか予測はできても、実際にやってみんと、のう。どれ診せてごらんな、ウム」


 とイタズラそうな笑みを浮かべて、結界を崩した。


 その後、リー師も交えて、体のあちこちを調べられると、血を抜かれて、苦い薬を飲まされる。


「今日は時間を置いて、また再検査じゃのう、ウムウム。その間暇じゃろうから、ヘタや、お主が呪術の初歩を教えてやるかい? ウムウム」


 とヘタちゃんを呼び寄せた。


「はい、大おばあ様」


 と答えるヘタちゃん、なんと肉親でしたか! 似ても似つかない二人を見て驚いていると、ヘタちゃんが腕を引いて、こっちこっちと先導してくれる。可愛いなぁ、おじちゃん逆らえないよ。


 鼻の下を伸ばす俺を尻目に、占婆達は血液検査の準備に取り掛かり、何事かを小声で話し合い始めた。


 〝それにしても私も指輪も感知できないとは、何の力だい?〟


 サバ姉の言葉を受けて、ヘタちゃんに問うと、


「そのことは分からないんです、ごめんなさい」


 と頭を下げられた。そうか、同じ呪術師でも、まだ下っ端のヘタちゃんにはそこまで教えてないって事か。


「そうか、じゃあ……そうだ、シユロの灰汁から黒子汁を作る方法は? 教えてくれる?」


 と問うと、コクリと頷かれた。早速手近なテーブルにシユロの灰汁を用意するヘタちゃん。その後ろでは、占婆達が俺の血を使って、何かの実験をしている。


 何なんだ?


 〝もしかしたら……のアタリはつけてるんだけどね〟


 え? サバ姉は分かるの? 占婆達が俺に何をしようとしてるか?


 〝もっとも推測の域はでないわ、憶測が勘を鈍らせる事もあるから、あなたには伏せておく〟


 なんだよ、教えないんかい。


 心の中でサバ姉に突っ込んでも、何も返って来ない。代わりにヘタちゃんが、


「こっちです、この装置で濾過しながら純度をあげていきます」


 と説明を始めた。今後のために製造方法をしっかり記憶せねば。

 俺は後ろの作業を気にしつつ、教え上手なヘタちゃんのもと、黒子汁作成に没頭していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ