タイムリミット
俺は、刻々とタイムリミットが迫る中、蟻塚から少しでも遠ざかろうと、走り出していた。
入念に動作確認をするが、サバ姉監修のもと製作した南風獅子鎧服、略して南服は、絶妙な加減で体にフィットし、走るのにも支障がない。
唯一難点を言えば、素っ裸に直接着込んでいるために、股間が擦れる。このまま一日着ていたらーー大事な袋が擦り切れてしまうかも知れない。
しまった、収納袋を作るより、自分の袋を守るパンツを作るべきだった、と思っていると、
〝ずいぶんと安心して走ってるけど、いまだに危機的状況なのは分かってるかい?〟
右手に持ち替えていたサバ姉がブルリとふるえた。
いや、そんな事はないけど、サバ姉がなんとなく危険を察知してくれるから……
〝甘ったれんじゃないよ!〟
サバ姉の一喝が、脳を直接揺らした。
〝あんた、私がいつまでも居ると思ってんのかい?〟
というサバ姉、えっ? 期間限定なんですか? と驚いていると、
〝ちょうど良い、ここまで来れば、蟻達の生活圏外だから、あの木陰に向かいな〟
と指示された大木の陰にいくと、サバ姉に教わりながら、周囲の安全を確認して、その根元に腰を下ろした。
荒い息に南服が揺れる。だが体力的にはまだまだ余裕がありそうだ。
右手に持ったサバ姉を見ると、刀身から握りまで、全て真っ黒な大型ナイフは、日本ではたとえキャンプに行ったとしても、持て余す感じである。
ガッチリとした作りの全長40センチほどもある肉厚のナイフは、しかしこの状況ではとても頼もしく感じられた。
だがこれも期間限定のオプションなのか?
〝いやいや、このナイスボディーは在り続けるわよ、でも内包された魔力は有限って訳。正直こうして喋っているだけでも、少しづつ消費していくわ〟
そうか、乾電池入りってイメージかな?
〝そうね、南風獅子を屠った時なんかも、私のサポートで相当威力が増していたのよ。あれはかなりの魔力を消費したわね〟
じゃあその魔力が無くなったら……
〝私とはさようなら〜って訳。つまりそれまでにここでの生存術を身につけないと〟
なんにも知らない俺なんか、すぐに死んでしまうだろうな。
〝って訳、だから、常に気を引き締めて、私の言うことを一言一句忘れずに刻み込みなさい、分かった?〟
おう分かったよ、サバ姉。でもこうして思考同士で会話するのが負担ならば、声に出した方が良いのかな?
〝それは一緒よ、どうせ音声は感知できないし。私は魔力的な感覚でこっちの世界を捉えているから〟
ほうほう、ならば本体はどこか、例えば残念神の住まう天界なんかに居るのかな?
〝うるさい! そんな詮索よりも、サッサと移動する! 目標地点はあの山、あそこを越えれば、街道があるはずだから、今日の内は歩き通して麓まで行くわよ〟
俺は熱のひいた体を起こすと、サバ姉を右手に歩き出した。その時、
〝空腹状態を確認、キッシュが消費されます〟
という脳内アナウンスが流れた。ええっ! 一番まともな食料を自動消費って、そんなんありかよ? 消費するならイカにしてくれ!
腹に溜まる食料の重みを感じながら、軽く絶望感に襲われる。
くそっ、神様(自称)め! 絶対遊んでやがるな。食べ物の恨みは深いんだぞ、覚えとけ!
変にテンションの上がった俺は、周囲のモンスターに気を付けながら、速やかに歩き始めた。