表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/78

音無の告白

「試して欲しい事があるんだが、命がけになる可能性がある」


 真剣な顔の音無も美しいなぁ……いやいや、それどころじゃない、命がけ!? 音無が言う命がけって、またとんでもない事をさせられるんじゃないの?


 昼間黒犬にやられたカンジヤが頭をよぎる。即死ならまだ良いが、命〝がけ〟って部分がまたえぐい。死にかけるって事? この過酷な世界で? 働けなくなった余所者を養うほど、生易しい世界じゃあるまい。半死状態の事を思うと恐ろしくなり、


「い、命がけなら、死にかけたときはトドメを刺してくれるか?」


 と音無にすがった。いきなりの言葉は、音無にとって意外な反応らしく……しかし目を見開いた彼女は俺の顔を凝視すると、


「分かった」


 と一言だけ告げた。その寡黙さだけが信頼に値する。少し落ち着いた俺は、


「で? 何をするの?」


 と尋ねると、


「まあ待て、この話は本当に繊細な問題だから、私の口から言う事はできない。すまない、一方的で抽象的な話だけで命がけとか、訳が分からないだろう。神器のナイフ殿も、気を悪くしないでいただきたい。悪いようにはしないとだけ、約束する」


 と頭を下げた。


 〝全くもって気にくわないねぇ、命が一番大事なんだ、それをかける意味がある事なんて、この世に存在するのかね?〟


 サバ姉が俺の代わりに怒ってくれる、サバ姉の意思もあり、そのまま音無に代弁すると、


「確かにそうだ、私に与えられた権限ではこれ以上の事は……明日占婆に詳しく聞いてくれ。その上でそれを受けるかどうか選んで欲しい。不義理の代わりに……私の秘密を教えよう。明日の話にも関わってくる事だ」


 と言うと、身に纏う狩猟着を脱ぎ出した。おいおい、そんなサービス……うん、苦しゅうない、もっと脱げ脱げ。


 汗の乾いた外衣の下には、これまた真っ黒な肌着を着込んでいる。その腹部を捲り上げると、さらにその下には、文字の書き込まれた布が巻きついていた。おしい、もう少しまくりあげたところの双丘が拝みたかったんだなぁ〜。寸止めなんて、音無は案外テクニシャンだな。


 その布の端の封を解き、巻きつけながら剥がしていくと、漢方薬のような臭いが部屋に充満する。


 その中から姿を現わしたのは……真っ黒な染みが渦巻く腹部だった。真っ白な肌を穢すような黒が、滲むようにポツポツと肌を染めている。


 その布が完全に取り払われると、染みの中心部は真っ黒な塊だと分かる。艶消しの隆起が、見るものに不気味な求心力を放った。


 魅入られた俺に、少し硬直した声で、


「これが私の力の源、死告獣と同じ究極の呪い〝黒呪〟だ」


 と言われて気付く、あの死告鳥にやられた動物が真っ黒に変色していたのを。それと音無の腹が同じ状態とは、どういう事だ?


「幼少期、野外で死告鳥と遭遇して、黒呪を腹に受けた。その場にいた占婆の即座の処置にて、それは極一部分に封じられたんだ。その頃の死告鳥はまだ幼体で、力も弱かったからな。今ではこの封印黒呪を使いこなす事で、己の力と為す事もできる。今日も見ただろう? 煙の呪術、あれもその力の一部だ」


 と説明すると、真っ黒な腹をさすった。凄い、腹黒と言われる人間はいるが、本当に腹が黒いなんて……


「汚いだろう?」


 少し自嘲気味に問う声に被せるように、


「かっこいい」


 自然と言葉が漏れていた、腹に呪いを宿す女狩人なんて、超絶カッチョエエ! 思わず触ってしまった俺に、驚いた音無は絶句して、しばらく無言のまま、腹をさする音だけが部屋を満たした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ