自室にて
退室した後は、それぞれに労をねぎらい合うと、接子であるカンジヤが死亡した件もあり、その場で解散、各自部屋にて過ごす事になった。
「あ〜あ、後味悪ぃ〜なぁ」
ハア〜〜ッと長い息を吐き出した俺は、硬い敷物の上にゴロンと寝転んだ。汗や泥で張り付いた衣服を剥ぎ取り、もらった褌一丁である。揉みしだく腕、肩、太ももはパンパンに腫れて、後から筋肉痛になるだろう事は必至だった。
〝気づいたかい?〟
護身のため身近に置いておいたサバ姉の、突然の質問に、え? 何が? とキョトンとしていると、
〝接子長だよ、奴の仕掛けてきた事に気づいて……無いわね、その調子じゃ〟
と言われても、えらく睨まれた記憶しか残っていない。
〝そう、その睨まれた時に、精神同調の超能力を掛けられそうになったの〟
と言われて驚いた。接子長は超能力者なのか?!
〝もっとも彼の能力はそれ以前の段階で止まっていたけど……というより、その状態で貴方を観察していたとするのが正確かも知れないわね〟
う〜ん、分からん。
〝つまりは精神同調までかけずとも、微弱な能力の発動で、貴方の心理を読んでいたってわけ〟
ほうほう、それであれだけ睨まれていたのか。なんだ、恨まれたってのは俺の勘違いだった?
〝それは……分からないわ〟
……あ〜あ、何だか面倒臭いなぁ、話が複雑で良く分からん。俺は単純なのが一番良いわ。眠たいから……寝るっ!
疲れたところにゴチャゴチャと考えを巡らせたので、強烈な睡魔に襲われた。そのまま目をつぶると、思考停止……五秒後には完全に熟睡し始めた。
〝まったく、良い性格してるわよ。たまに怖くなるくらい〟
サバ姉の念話が宙にかき消える。
*****
「ナナシ……ナナシ、入るぞ」
ドアをコンコンと叩かれて、薄っすら頭が回り出す。うん? 入る?
「ううん」
と声を漏らしながら頭を上げると、静かにドアが開いた。
「誰?」
と聞くと、
「私だ、音無だ、入るぞ」
と言われて、自分が褌一丁なのを思い出す。
「お、おうっ」
と薄い掛け物を羽織ると同時に、ロウソクの火が入って来た。それを壁の窪みに据え付けた音無が、
「今日はご苦労さん、やっと検分にひと段落つけたよ」
と疲れた声で言うので、水瓶から一杯の水を汲み渡すと、美味そうにゴクゴクと飲み干した。寝た感じからすると、大分時間がかかったに違いない。だが音無は声以外は平気そうな顔をしてあた。相変わらずタフな人だ。
にしても狭い部屋に男女二人きり、何ともムーディーなロウソク灯の元、この状況……ドキドキするな。
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、グッと身を寄せてきた音無に、ピクリと過剰反応してしまう。その顔が、俺の間近まで迫ってきた。マヂ? マジでそういう事なの? と思っていると、
「ふぅっ」
と息を吐いた音無が、
「実は、ナナシに頼みたい事があるんだ」
と手を取って告げられた。その時、ドキンと心臓を跳ね上げた俺の中の乙女が〝キャッ〟と小さな悲鳴をあげた。




