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雷撃(3)あっさり不発

 〝やばい! 先制攻撃を!〟


 サバ姉の声に、収納された魔法の中から、一番遠距離に届く雷撃(3)を選び、念じた。伸ばした左手薬指から、空気を切り裂く青い稲妻が迸り、轟音とともに頭の無い黒犬を撃つ。


 だがそれは広がった黒靄に当たると、何事もなかったかのように吸収されてしまった。


 その間にもしっかり組まれた接子の防御陣形から、ヘタちゃんの呪文が聞こえてくる。何か大きな術でもかける気なのか?


 その中に音無の姿は無かった。既に潜伏しているのだろう、いつもながらその素早さには敬服する。だが俺にはそう言ってられる余裕もなく、新たに黒矢の装填された十字弓を取り出した。

 跳ね上がる心臓が邪魔をして、手も震えて狙いがつかないが、


 〝深呼吸!〟


 サバ姉のアドバイスに、鋭く吸った息を、ゆっくり細く吐き出す。まずは先端の照準器を黒犬に当てて、後端の照準器も合わせ、いつでも射てる状態にした。今回はセキもナナも十字弓を構え、ミルを含む三人が前線を敷いているから、それほど慌てることはないが、雷魚竜由来の雷撃を三回分束ねた魔法を一顧だにしないあの黒靄は不気味だ。


「射て!」


 セキの合図とともに、十字弓隊が一斉に矢を放つ。十分にひきつけた必中の矢は、ブレるように瞬間移動する黒犬にことごとく躱された。


 さらに前衛組の一人が手振り包を投擲するが、スピードに間に合わず、地面に広がった黒染も不発に終わる。


 それを見て魔獣骨の盾を全面に、前衛組が一歩前に出ると、黒犬を取り囲もうとして、大発生した靄に包まれた。

 視界ゼロの中、確認し合う男達の声と、岩場を駆ける足爪の音だけが聞こえる。


 第二矢を装填した十字弓を左手に再度出現させた時、


「ギャアッ!」


 と野太い絶叫が上がった。その直後、黒靄の中からミルが接子とともに飛び出してくる。二人はもう一人の接子を引きずっており、その頭部からは黒い煙を立ち昇らせていた。


 セキやナナが彼らを後ろに庇い、腰元の短剣を構える。俺もヘタちゃんの前に出ようとして、並び立った瞬間、ヘタちゃんの口から、


「呪いを受けよ」


 彼女のものとは思えぬ低く干からびた呟きが漏れて、封を切った壺から、強烈な気配をふりまく何かが揮発きはつした。


 黒靄が一瞬にして収納されると、その中心に立つ黒犬が周囲を訝しみながら、鼻を効かせる。その体に音無の一撃が襲いかかるが、彼女が筒から射た呪煙は躱され、反対に黒靄の放射を浴びそうになった。


 だがそれらの動きは全てが陽動であり、無防備な黒犬の背後に、ヘタの放った何かが取り憑くと、今度は黒犬が転げ回って苦しみだす。


 しばらく足掻いて、自身の黒靄をまとい姿を隠した黒犬はーー視界が晴れる頃には姿をくらませていた。


 呆然と立ち尽くす俺が、ダメージを受けたであろう接子の元に向かうと、頭部が腐れ落ちた死体と対面する。

 看取ったヘタも首を横に振り、


「即死なのがかえって幸いでした。ほとんど痛みも分からない内に死亡したはずです」


 と亡骸の黒ずんだ頭部を見る。それはそよ風程度の刺激でホロリと崩れると、乾ききった燃えかすのように地面に散らばった。


 グロい断面と猛烈な悪臭に、思わず顔を背けると、


「奴は?」


 と周囲を探知している音無に聞く。彼女はそれに首を振ると、なお探知を続けた。どうやら逃走したらしいが、突然の事態に訳が分からない俺は、サバ姉の、


 〝どうやら近場には居ないようね〟


 という言葉を聞き、麻痺しそうになる頭と、凝り固まった首を回した。早くこの場を離れて、山岳民の住居に戻りたいが、音無は裂け目の洞窟も調べるという。


 まじっすか? もしかしたら百目も居るかもしれないのに?


 と言いたいのをグッとこらえて、それでもなるべく早く済ませようと、遺体を回収しようとするセキを手伝い、死んだ男に防腐布を巻きつけていった。

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