ばっちい名前の武器
サバ姉の言う通りに、腹にナイフを入れていくと、内臓をかき分けて胆嚢と結石を掴み出す。
南風獅子の肉は硬すぎて食用にならない(強いて食べればタイヤのような食感らしい)ので、価値があるのは、この胆嚢と石、それに毛皮らしい。
薬の材料になる胆嚢と、魔力を溜め込んだ結石(これは高い魔力を含んでいると、魔石と呼ばれる、価値のあるお宝になるらしい)は、比較的簡単に回収できた。
特に結石は内側から、緑色に淡く発光しており、正に魔石然としている。これは高値が期待できるか? もっとも換金する場所も知らないし、第一貨幣どころか、文明社会があるかどうかすら分からない状況だが。
それを思うと、一番の収穫は毛皮である! これを上手くすれば、全裸生活ともおさらば出来るぞ。
サバ姉早く剥ぎ取りかた教えて! と思っていると、上空から、
「グエェェェッ!」
と不気味な泣き声が聞こえてきた。
〝腐肉鳥だよ! 南風獅子を回収、蟻塚の頂上付近に移動して〟
というサバ姉の言葉に、解体中の獅子に触れてから、蟻塚の頂上付近に登った。
そこには直径1メートルほどの穴があいており、すり鉢状に傾斜がついている。
サバ姉を構えた俺の上に、巨大な鳥が襲いかかろうとして、穴の上を通過した瞬間、弾丸のような勢いで、黒い何かが射出された。
それは空中で、
「バチイィンッ!」
と硬質な音を立てると、鳥と共に落下する。
暴れる鳥をものともせず、穴に押し込んでいくのは……巨大な蟻? アリというにはいささか抵抗のあるほど、トゲトゲしく黒光りするそれは、俺よりはるかに長い体をくねらせて、立派な顎に挟んだ腐肉鳥と共に消えていった。
え? あれが五万と?
〝そう〟
この下に?
〝それが陽の光を浴びると、地上にワサワサと〟
まぢっすか、こうしちゃおれん。サッサと作業を終えて、早いところ撤収しないと。
〝そうね、頑張れ〟
俺は冷や汗をかきつつ、すこし穴から離れると、南風獅子解体作業を急いだ。
細長い尻尾はハケのように長い毛が生え揃っている。それを根元から切るように指示されると、捌いた皮の前に立たされた。
〝じゃあ強靭薬をだして〟
え? これから強靭になる必要があるの? 何をするつもり? と思っていると、
〝もちろん、この皮で強靭な鎧服を作るために、使うのよ〟
とご指摘を受けた。当然のように飲み薬だと思っていたポーションの一つが、塗り薬、というか加工用の薬品だとは……道理で生命の危機を覚えるような臭いだったはずだよ。
こうして尻尾のハケで、皮に薬を塗っては形を整え、皮どうしをはり合わせ、硬いところと柔らかいところのグラデーションを作り……慣れない加工に苦労しながら作業を進めると、薬が無くなると同時に、南風獅子皮革の鎧服が完成した!
自分自身はよく見えないが、薄緑色の革鎧は、初めて作ったとは思えないほど、体にフィットする。
ついでに余り皮で作ったショルダーバッグに、拾得物の胆嚢、魔石を入れると、
〝その尻尾、収納してみな〟
と言われる。早速左手で触れると*武器の欄に収納された。詳しく見ると、
【南風獅子の尻尾鞭(強靭)】
とある。確かに加工作業中に、尻尾全体にも強靭薬を塗っていた。あれはこうして武器にするためだったのね? さすがサバ姉。しかし名前が長いなと思っていると、それに反応するように、
【南風鞭】
と名前が変わった。流石は便利な指輪、便利仕様が神対応だな。しかし……
はえべん……なんともばっちい名前だなぁ、と思ったにも関わらず、南風鞭ははえべんで固定された……指輪の神対応、よく分からん奴である。