門の外
門を出てしばらく進むと、他の遠征メンバーが待機していた。今回は大型魔獣との戦闘がほぼ確定しているため、以前の演習よりも人員を割きたいところである。しかし、確実な隠密行動が絶対条件のため、基礎能力の高い者、音無の命に忠実な事が求められた。
そうするとナナ、セキ、ミルの三名は確実にメンバー入りする事になる。
二人に両脇から挟まれて、巨大な体を窮屈そうに縮めたミルが、俺に気づいてビクリと身を震わせた。ありゃぁ、相当絞られたに違いない。顔はほぼ無傷に見えるが、まぶたと唇が若干腫れている。体にはもっと沢山のアザがあるだろう。
二人にこずかれながら俺の前に来たミルは、
「す、すみませんでした。その……俺、スキルまで使う気は無かったっす。その、カーッとなって……」
どもりながら必死に言葉を探す。その巨体が頭を下げる度に細々と折りたたまれ、その度に尻がプリンと突き出された。
「気にすんなって〜、ミルちゃ〜ん」
ん、のところで目の前のプリッ尻をラインに沿って撫でると、
「ね〜、音無さん」
と反対の手で隣に立つ音無の尻も撫でようとして、手首を弾かれた。
くっ、よくぞエロの気配を極限まで殺した我が自然派接触術を見切ったな! 思わず細めた目と〝殺すぞ〟と語る三白眼が空中衝突しそうになって、寸前で目線を外した。
「本当にすまないっす」
一方のミルは、俺のフランクな返しに顔を真っ赤にしてボソッと言葉を漏らす。グゥ可愛、俺がお姉さんなら何かの液を分泌しているに違いない。
〝何考えてるのよ、最近ますます変態じみてきたわね〟
サバ姉の念話に胸の内を改める。まさか本当に俺……
そんな何かの気配を察したのか、ミルはぎこちない笑顔を見せると、後ろに控えていた二人に連れられて、遠征隊の他メンバーの元へと合流していった。
三人の他にも戦闘要員が二名に、荷物運び要員が二名、さらにもう一人……
「ヘタちゃん!」
思わず声をかけると、こちらを見た少女がニコッと笑った。おおう、エンジェル! 思わず上気した俺を、
〝ボール二つ分アウトじゃなかったっけ?〟
とサバ姉がくさす。ああそうさ、でも可愛い子が同行するなんて嬉しいじゃないか。今回は呪術師としての同行するらしい。
「こう見えても呪術師としては優秀なんですよ?」
と言って結わえた髪を揺らすヘタちゃん、こっちは普通に可愛いなぁ。
総勢八名、隠密行動には多すぎるし、大型魔獣を狩るには少な過ぎるが、相手の力と音無の能力をかんがみてこうなった。今回はかなり音無の力を当て込んでいるらしい。
全くもってけしからんお尻だ、と視姦する俺を無視して、音無はテキパキと周囲の男どもに指示を出し、すぐさま出発となった。
ああ、これから死地に向かうというのに、全くもって緊張感が薄い。いや逆か? 危険な気配が濃くなればなるほど、それを紛らわすために軽薄な思考や軽口で、バランスをとろうとするのかも知れない。
何せ今回のターゲットはかなりの強敵なのだ。岩場の覇者である洞窟班目熊、その中でも古老とされる〝百目級〟は、巨体からくる力とタフネス、そして年月と共に備わった千里眼まで使いこなすという。
まさにパワーとスピード、そしてテクニックと特殊能力まで兼ね備えた、理想的な(狩る側からすると最悪な)敵と言える。
だがそれでも、音無の力に比べれば組し易い敵だという。一体この音無はどれほどの力をもっているのか? そう思って、再度音無の尻を見た俺は、その理想的なフォルムに深く頷いた。




