男臭いかい? フフフ……
咄嗟に伸びた左手を握りこむように〝ダメだ!〟と念じる。これは実戦ではないんだ、相手だって仮想敵であって敵じゃない。途中まで発動していたアナウンスを封じ込めるように念じ続けると、指輪はそれを察知して沈黙した。
目の前には巨大化した拳がアッパー気味にせり上がって来る。
咄嗟に覚悟を決めた俺は身を引き締めると、せめて事の成り行きだけは見届けようと目を見開いた。その集中状態の中で、突如ミルの体が真横にズレるーー
本当に真横にズレる事ってあるんですね、人間が。しかもそれが体重百キロは優に超える大男となると、着地点は悲惨な事になる。
立てかけてあった物を派手にぶちまけながら地を滑るミル。少し前まで立っていた場所を見ると、突き飛ばしたセキが全身を真っ赤に染め上げながら、大きく肩で息をついていた。
「ばかもん! 組手でスキルを使う馬鹿がどこにいるかっ! 貴様、よくも俺の顔に泥を塗ってくれたな!」
ズカズカと音を立てて追いかけるセキの剣幕に、地面に転がされたミルが縮こまる。それは間近で聞いてる俺も縮み上がるほどの迫力だった。
セキはミルの頭元に立つと、
「何とか言ってみろ、どういうつもりなんだ? あ?」
立ち上がりかけていた膝裏を引っ掛けて再度転がした。ひええ、ヤクザっすか? 先輩後輩の厳しい関係性だろうけど度を越している。まあやられそうだった所を助けてもらって、ありがた嬉しいんだけどね?
なおも責め立てようとするセキをナナが止めると、仲間内でのゴタゴタを恥と捉えたのか、周囲の人たちがミルを連れて部屋の外へと出ていった。
「何だかすまんな、あいつには良く言って聞かせとくからよ」
と謝るセキに、
「いえいえ、めっそうも無い」
と首を振る。切れた口から血が飛んで、それを慌てて拭こうとすると、
「いいから、今日はこれまでにしよう」
とナナが切り出した。後輩らしき数人が後片付けを始めたので、邪魔になってはいけないと思い、退室しようとする。だがその前に一つ、
「あの〜、それで合格なんでしょうか? それとも不合格?」
再び閉じる鼻をブシブシと鳴らしながら聞くと、ナナと他の男が顔を見合わせて、
「合格だよ、なあ?」
「ああ、いい根性を見せてもらった。しかも最後に指輪で何かしそうなのを止めただろう?」
とセキ、意外や俺の行動は筒抜けだった。
「ええ……まあ……」
と恐縮すると、
「セキの怪我の時といいお前は何か良い、何がって無いけど、何か良いわ」
と笑い合った。それは接子の皆にも伝播して、何となくムードが和む。
認められるって良いな、嬉しいな〜。と浮かれていると、
〝何か男臭い展開ねえ〟
とサバ姉にくさされた。良いじゃん男なんだし。




