VSミル
と、思っていたのは最初だけ。やはり長年実戦で鍛えられてきた男達の強さは半端じゃなかった。
ボロボロになりながらも、なんとか食らいついていったが、力が強い程度の素人が敵う訳もなく、良いように嬲られるのみ。セキやナナが止めに入るから、まだましだったが、中には明らかに殺気を放つ者もいた。
目の前のこいつもそうだ。
「音無さんの事を笑いやがって、許さんっす」
鼻息も荒く拳を構えるのはミル。いやいや、別に音無の事を笑った記憶はないんだけど? ちょっとだけ人の恋愛を楽しんでたのは確かだけど、人の気持ちって難しいわ〜。
殴られすぎて鼻血に詰まった鼻がブシブシと鳴る。視界を狭めるほどに腫れ上がった顔は、熱をもって鈍く痛んだ。
体を低く構えながら、こちらを凝視して近づいてくるミルの体は、他の接子よりも一回り大きいな。あの拳で殴られたらとても痛そうだ。
「加減しろよ!」
セキの声も届いているのか? 三角の目は俺をくびり殺さんとばかりにギラついている。だが俺の中にもなんだか分からないけど、ムラムラと滾るものが生まれていた。
ミルは分かりやすく振りかぶると、そのまま殴りかかってきた。まるでここを殴りますよ! と宣告しているような……これは挑発だ。俺は冷静に距離を取ると、二度、三度と大振りをかますミルを観察した。
敵わなくとも一矢報いるために、俺はこの組手の間中秘策を練り続けてきた。それは昨日までのナナとの乱取り中に、一度だけ決まった引き倒し。下半身にタックルをかまして、引き上げるだけの技ともいえないものだったが、偶然決まったそれは、岩の地面とともに、結構なダメージを相手に与え、ナナの賞賛を受けた。もちろんその後は、倍返しとばかりにボコられたが。
ミルの太ももはナナのそれよりも一回り太い。筋肉質にモリッと膨れ、果たしてこれに組みついてどうこうできるか? 不安になるが、目線でバレないようにポーカーフェイスを保ちながら、隙をうかがった。
接子の中でも最年少なのか経験不足が見え隠れする。拳が当たらない事にイライラし始めているのが、分かりやすいほどに伝わってきた。皆に認められたくてしょうがないお年頃なのだろう、大振りがさらなる大振りをよんで、どんどんタイミングを合わせやすくなる。
〝今だ!〟
しゃがんで避けた勢いのまま突進すると、太ももを抱え込むように当たりにいく。
待ってましたとばかりに顔に伸びる膝、膝蹴りを狙っていたのか? だがしっかり備えていた俺は、体をズラすと、左側にに捻るように食らいついた。
肩を蹴られながらも軸足に食らいつき、一旦押し込んでから思いっきり引き寄せつつ、全身を使って立ち上がる。フワッと浮いたミルの体が思った以上の勢いでひっくり返ると、後頭部から硬い地面に落下して、鈍い音が響いた。
大丈夫か!? やり過ぎてしまったかと思い、ミルを覗き込むと、
「ブフーッ!」
と熱い息を吐き出したミルの体が見る見る膨れ上がっていく。何時か見たスキルかっ! 瞬間、生命の危機を覚えて俺の鼻腔が開き、鼻血で塞がっていた鼻が通った。
巨大化したミルは反動をつけて飛び起きると、こちらに飛びかかってくる。
〝生命の危機を感知しました、魔法ーー〟
同時に、指輪の発するアナウンスが俺の頭に響いた。




