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新たな世界

 毎日のドーピング索敵&隠遁活動、そして修練という名の暴行に耐えること十日。何となくのイメージが確信に変わりだし、その日の索敵&隠匿行軍も滞りなくくさびゾーンまで来ていた。


「今日はここからさらに足を伸ばしてみるか」


 という音無に、


「まじっすか? 洞窟斑目熊まだらめってメチャクチャ強そうなんですけど」


 と素直な感想を述べると、


「特に強い訳でも無いぞ、まあ目が多い分視界が広くて攻撃の見切りが厄介なのと、体が大きく生命力と力が強いから、まあ今のお前では瞬殺かも知れんがな」


 と言って、だから何だとでも言うようにこちらを見てくる。まあそうだよ、俺は指輪の能力以外は雑魚以下だ。それをこの十日あまりで痛いほど思い知らされた。


 というか、音無にしてもナナにしても、この世界の狩人は強すぎるんじゃないか? 常に外敵という危険にさらされて実戦の中で鍛えているせいか、体力なども相当高いし、スキルや呪術なども普通に使いこなしている。


 慎重に謙虚に、楔外の危険地帯を進む。すると結界の効果が切れたせいか、肌で感じるほどに生き物の気配、その密度が変わった。


 立ち止まって観察していると、さっそく岩蠍いわさそりの揺れる尻尾を発見した。この時間はいつも日向ぼっこをしているみたいだ。ゆらゆら揺れる姿は可愛くも見えるが、毒針の先に薄っすらにじむ毒々しい色合いを見ると、背筋に緊張が走る。


 いつもの通りに迂回しようと岩場に手をかけて登り……ふと顔を上げた岩棚には巨大な何者かの影があった。

うおっと! すぐさま頭を沈めて気配を遮断する。完璧とはいかないが、敏感になっている分、自分の発する微細な音や匂い、振動なども詳細に気になって、隠遁の真似事ならできるようになってきた。


 あれは……洞窟斑目熊まだらめか? 目だけ出して静かに観察していると、まだらめはうずくまっているのではなく、四肢を縮めて気配を殺しているらしいと気づく。

 その獲物は先ほどの岩蠍だろうか? 揺れる尻尾を複数の目が追いかけている。こちらの方にもついている肩口の目と一瞬目が合いそうになるが、寸前で隠れる事に成功した。


 怖えぇぇ! 距離があるから分からないが、立ち上がったら3メートルは確実に超えそうだ。


「よく気がついたな、あいつが岩蠍に向かっていったら、その隙に先に進むぞ」


 了解の印にうなずくと、ジッとまだらめの気配を探る。しばらくしてからゆらりと態勢を整えると、崖の淵から走り出した。

 巨体からは想像もつかない俊敏さで駆け下ると、岩蠍に腕を振るって弾き飛ばす。周囲の岩も一緒に削る甲高い音が響いた。


 今の隙にと前進してその場をやり過ごすと、心臓が落ち着くのを待ってさらに奥へと進む。にしてもあれで強く無い方かよ。確かに南風獅子や雷魚竜、それに別格であろう死告鳥は強かったけどさ、まだらめも相当手強いんじゃないの?


 〝それこそ指輪の力だね、音無からすれば魔法なんていう厄介な攻撃方法を持たないまだらめは、まだ組し易い相手って事だろう。あなたはそこらへん免除できてるからね、感謝しなさい〟


 確かに、指輪が無かったら、魔法というのは相当厄介な存在に違いない。ありがたや〜。


 大分と進んで、もはや生物の気配が濃厚すぎて避ける道も無くなった時、ようやく音無の合図で引き返す事になった。先ほどの地点に戻ると、岩蠍の死骸が発する生臭さが周囲に充満し、死体処理の獣どもがウヨウヨと湧いて出ているのが分かる。しかしそこにはまだらめの姿は見えなかった。


 満腹になって名前の通り洞窟にでも戻ったのか? 周囲に気を配っても、なんの物音も気配もない。これ幸いと取りあえず結界域を示す楔まで引き返して、大きく一つ息を吐き出した。


 〝分かってた? 違いに〟


 唐突なサバ姉の言葉に、何が? と尋ねるが返事はない。違い? 結界の外との違いならば、現れるモンスターが桁違いだってのはもちろん分かるけど……と思っていると、隣にたたずむ音無も、


「今回はいつもと大きく違う点がある、もちろん楔の外に出たって事じゃないぞ。分かるか?」


 と聞いてきた。え? やっぱり何かあるの?


「全然分からない」


 キョトンと聞く俺を嬉しそうに見た音無が、


「今回の敏感薬な、あれは偽薬ぎやくだ」


 と告げた。ぎやく……偽薬……偽の薬……


「え? 偽物? じゃあ」


「そうだ、今回お前は自分の力で探知と隠遁を行ったんだ、しかも楔の外をな」


 まじかよ! 確かにそう言われれば、いつものような過敏反応の後遺症も無い。つまりは……


「一先ず探知と隠遁は合格ラインだな」


 音無師匠の嬉しい言葉に喜びが沸き立ったが、


「ではこっちも頑張るか」


 すぐ側に待ち受けていたナナの言葉に、膨らんだ心はすぐに萎んでいった。


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