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新たな世界(未遂)

 解毒のために(薬だって言ってたよね?)沢山の水を飲まされて、一休みしてから案内されたのは、集落の奥部にある汗臭い部屋だった。


 集落は巨大な岩棚にできた洞窟を繋げた構造で、昼なお暗い部屋にはランプの灯りが一つあるのみ。不気味で臭い部屋に入ると、


「まってたぞ」


 唐突に声を掛けられてドキッとする。まだ過敏薬の効果が残っているのか? 声の方向を凝視すると、影になったところから、一人の男が立ち上がった。


「スンジャセキ……セキから頼まれて来た、あいつの代わりにお前を鍛える」


 おう、なんか影があってかっこいいな、怪我しなかった方の接子さんね。その男に、


「ナナ、頼んだよ」


 と言って音無は去っていった。明日もまた同じ時間に同じ修練をするらしい。これがいつまで続くのか……


 〝ラッキー、しっかり死に難く訓練してくれるなんて、願ったりかなったりね〟


 う〜ん、そうなんだけど、嬉しいと手放しには喜べないな。薬浸けになる前になんとか認められるようにならなくちゃ……さて、今は目の前の課題をこなすか。


「で、ナナさん、何をするんでしょうか?」


 と聞くと、厳つい男はニヤリと笑って、


「ナナで良いぞナナシ、似た名前どうし気を使う事もない。多分年も近いからな」


 と言うと見上げるような位置から手を差し出してきた。こんな厳つい大男が同い年? 信じられないが、確かに声だけは若い。握った手は大きく分厚く、音無以上に硬くザラついていた。


「セキが世話になった、もうすぐ完治するだろう。義兄弟の恩義は俺の恩義。だから俺がお前を鍛える」


 言葉は少ないが、筋肉質な厳つい見た目に反して、意外と理知的な雰囲気を醸し出している。


「で、どう鍛えてくれるの?」


 普段通りの口調になって話しかけると、黄色い歯を見せて、


「接子の覚悟を叩き込む」


 と言うと、いきなり俺の腕を取り、肘関節を捻った。


「いててててっ、な何するんだ」


 焦る俺が力を込めても、ビクともしない。それどころか力を込めるほど、より痛い方向に操作されて、呼吸もままならず抵抗の意思が萎えてくる。


「うむ、力は強いな、だが使い方がさっぱりダメだ。お前はやはり白紙の状態らしいな」


 と一人納得されながらも、寝っ転がされて、馬乗りされる。うつ伏せの俺は岩の床に撒いた砂を思い切り口に入れてしまった。

 吐き出す事も出来ずにジャリジャリと歯嚙みしながら、何とか楽な姿勢になろうともがく。


「あまり暴れると折れるぞ」


 と言いつつ、足を取られてぐるりと態勢を変えてくる。もはや上を向いているか、下を向いているのか、訳も分からないまま、骨折や筋を違える恐怖に耐え続けた。


「そうだ、今は受けるだけで良い」


 再び馬乗りになったナナが、耳元でつぶやく。何だよ? 鍛えるって言ってたのに、これがそうなの? この世界の修練辛すぎる。

 砂の味に恐怖が混じるが、それを味わう余裕もなく、良いように寝技、関節技、締め技をくらい続けーー解放されたのは日が暮れてからだった。もちろん窓もなく日の入りなどを知る術はなかったが。


 クッタクタのドロンドロン、もう目を開けているのも辛くて、空腹なはずなのに食べる気もおきない。だが引っ張られるように連れて来られた広間には、焼きたての肉が山盛りになっていた。


「食べろ」


 〝たべな〟


 有無を言わせぬ言葉と念話、なにものかも分からない骨付き肉を手に取ると、ホカホカと湯気を立てるそれにかぶりつく。うむ、硬い、硬くてしょっぱくて筋が臭い。感想はそれだけだ。


それをただひたすら咀嚼そしゃくし続けた。最後に顎筋まで鍛えるハメになるとは……トホホ……無理をして飲み込むと、次の肉、そしてまた次の肉と食べ続け、何とか出されたものを食べきる。


「さあ明日っからもこれが続くから、早く寝ておけよ」


 ナナの忠告にめまいがしそうになる。早くもメンタルやられてますよ、ご褒美ちょうだいよ〜。


 〝そんなもの無い!〟


 無情にも切って捨てるサバ姉のツン念話に『キュン』ときてしまったのは、吊り橋効果というやつだろうか? 新たな世界せいへきへの扉ではない事を祈りたい。

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