索敵&隠匿
それからも細かな生き物の息吹きにおののきつつ、おっかなびっくり進み続けた。過敏薬のおかげで探知能力に関しては、なんとなくだがコツを掴みかけている気がする。
〝そんなにすぐ身につくはずないだろ、調子に乗るんじゃないよ〟
分かってます〜、でも本当にちょっと感じるんです〜。なんとなくだけど『いるかな〜?』と思って注視すると、そこに擬態した生物が岩にしがみついたりする確率が上がってきてるんです〜。その証拠に音無も、
「だいぶん分かるようになってきたな、思った以上の潜在能力だ」
と言ってくれたし〜。
〝分かるけど、薬の影響が抜けた時にショックを受けないように自重しな。それよりその感覚をなるべく刻み込んでおきなさい〟
は〜い、と思っている間にも少し前の岩陰に生き物の気配発見。 どんな奴かな〜? と恐る恐る近づいていくと、大きな尾っぽがピクンと姿を現した。
毒々しい紫のかぎ針、その角度からして……岩蠍かっ!
本格的なモンスターの出現に胸の鼓動が高鳴る。ストレスで頭痛がするほどだが、生存本能が行動に移せと体に命じた。
俺は慎重に体重を移すと、音も無く迂回ルートを確認する。大丈夫だ、こっちには何の障害物もない。呼吸を整え、意識を周囲に拡散させると、他のモンスターにも注意を払いながら、ゆっくり移動した。
途中反対側の岩蠍から擦れるような物音がしたが、止まる事なく歩を進める。
一度跳ねだしたら、しばらく動悸がおさまらない過敏反応を意識して、周りの空気感に馴染みつつひたすら前進を続けると、反対側の岩場に辿り着いた。
ゆっくりと岩蠍の居た場所を見ると、さっきと同じ場所で、尾っぽを揺らしている。日向ぼっこか? そのリズムは一定で、まったく変わりが無かった。
周囲に気を配りながら、死角になるよう気をつけて進むと、少し坂道になった所で小休止する。よかった〜、何とか無事に避けられたみたいだな。
「よくやった、今回はあの目印の所で引き返そう」
音無が指差す先には、岩場に楔が打ち込まれてあった。
「この目印から先はさらに危険度が増す、洞窟斑目熊の生息地帯だ」
おおう、それは勘弁していただきたい。これ以上の過敏状態は心臓がもちそうにないし、太ももブルブル手はプルプル、首もガクガクですよ。
修練の目安として楔に触れると、来た道を戻る。やはりさっきの場所で岩蠍は揺れていた。あいつは何をしているんだ?
「あれは甲羅干しだな、ああやって日の光を浴びることで、体内の魔素を循環しているんだ」
おっと出ました、新たな概念〝魔素〟それって魔法を使うために必要な事だったりするのかな? 帰ってからじっくり聞こう。
それから音もなく静々と進み、途中二度ほど音無のお世話になりながらも、無事集落に辿り着いた。門戸をくぐりホッと一息ついていると、音無が近づいてくる。ねぎらいの言葉なんていらないよ、と思っていると、
「お疲れさん、さあこれから室内での反復修練だ」
と告げられ、疲労困憊の膝がくずおれた。




