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感じて見られてイカされて

「いいか? ここからは徐々に獣が増え始めて、もう少し離れるとモンスターも出現する区域に入る」


 うう、音無の声が頭に突き刺さる。辛くてちゃんと伝わっている事を表したいが、頷くのも過敏になった神経にさわる感じだ。

 その症状に慣れているのだろう、音無は返事を待たずに、


「私は隠れて見ているから、お前は好きな方向にまずは百歩歩け。その間、周囲の気配を察知するようにする事。そして何者かが現れたら、己の発する音、呼吸、匂い、それら全ての気配を殺して隠れろ。戦う必要は無い」


 なんとか一つうなずくと、満足気な音無は後退していった。ちゃんと見ててよね、と自転車乗りたての子供のような心境になる。だが見てて、持っててと念ずれば念ずるほど、保護者というのは手放すものだ。

 大丈夫かよ? という一抹の不安を抱えたまま、一歩一歩慎重に歩を進めた。


 風が吹き付けるだけでも全身を刺激する。その風が岩場に吹き付ける気配を、全身レーダーのように傍受していると、前方からかすかな違和感が……身を沈めてよくよく凝視してみると、岩場の一部がゆっくりと動いた。


 なんだろう? 手先から肩まで、だから約1メートルくらいの塊が、周囲の岩に溶け込むようにへばりついている。あれは?


岩角虫いわつのむしだ。近づかなければ無害」


 うおっ! 耳元で音無がつぶやいた。っていうか、こんなに敏感になってるのに、耳に口が付きそうな位置まで気配を感じさせないとか、お前の隠遁レベルはどんだけ高いんだよ!


「よく見つけたな、あれを避けてゆっくり進め」


 ジンワリとにじむ汗を拭うと、また一歩一歩確かめるように進む。なるべく音を立てなように進む上で、南風獅子の肉球ブーツが高性能でありがたかった。


 大きな岩を迂回していると、なんとなく熱いものを左側面に感じる。なんだろうこの感じ、まるで火でも焚いているような熱気だ。

 その熱源が『カサリ』と動いた。驚いた俺が足元の石を『ジャリッ』と踏むと、相手も気配を察したのか、動きを止める。これは反対回りの方が良いか? と方向転換しようとした時、その熱源が素早くこっちを追いかけて来る。


 やばい! と*指輪から十字弓を具現化するが、動悸どうきが激し過ぎて動作がぎくしゃくする。


 〝焦りすぎ!〟


 と腰の鞘にさしたサバ姉がいさめるが、跳ね上がる心臓が手先に伝わって、震えが止まらない。


 来るっ! 何者かが素早く岩伝いに寄ってくるのに合わせて、俺のすぐ後ろから何かが射出されると、迫ってきた何者かは弾かれるように地面にひっくり返り、動かなくなった。振り向くと、やはり音無だ。


 ふええ〜、生かされた〜。


 まだ震え続ける手を抑えて、十字弓をひとまず*指輪に収める。ひっくり返ったやつをよく見ると、ムカデのような形をしていた。これが岩渡りか? 小さいからまだ幼体なのかもしれない。その真っ赤な頭部のど真ん中には、指先ほどの穴が開いていた。



「ありがとう」


 と伝えると真後ろの音無が、


「気にするな、最終私が守るから、見つける事と見つからない事に集中しろ」


 とアドバイスをくれる。守ってくれるだと? か、かっこいいじゃないか、惚れるぞ。ていうか俺の中の乙女がキュンキュンきてるんですけど。

 潤んだ瞳で熱視線を放つと、若干引き気味の音無が、たじろぐように後退していった。んもう、いけずぅ。

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