必須能力
ヘトヘトになるまで座学を強要された後は、音無による十字弓の射撃訓練が行われた。そこで分かった事……俺の弓の腕はまずまずらしい。もちろん初心者にしては、の話だけどね。
だが彼女に言わせれば、無風状態でなんのプレッシャーも無ければ、それは当たり前らしい。まあ機械弓だしね。
照準器には細かな目盛りがついていて、距離や風などを換算して放つ矢は、名人にかかれば、五百メートル先の腐肉鳥を仕留める事ができるという。五百メートル先……すげえな、単位までニホンと同じなんですね? 分かりやすくて良い……って驚くポイントがズレたけど、機械式の巻上げ機付き弩なら、もっと射程距離の長いものもあるとの事。
それが実戦となると、プレッシャーで心拍数が上がり、狙いが定まらなくなるという。まあこればっかりは実戦を重ねるしか無いだろう。まだ俺も若いんだし、身体はレベルアップの恩恵で、普通の接子以上の力を持っているしな、これからこれから。
〝楽観的な思考があなたの長所ね〟
まあね、そこには自信があるよ。
〝でも楽観論者は怠け者が多いから、気を付けな〟
痛いところを突くな、でも安心して? 楽観論者だけど痛がりだから、安全のためなら頑張れちゃう。
〝そうね、先ずは生き延びるために何ができるか? 集落に利用されない程度に、しっかり学びなさい〟
サバ姉の激励を受けながら、音無から黒矢と虫矢を二本づつ譲り受けると、虫矢は指輪に収納した。何せ呪い虫なんて不安定な奴を、手荷物の中に入れるなんて、考えるだけでも恐ろしいからな。
いまの指輪の中は、
*食料【リンゴ、五穀米、柿、シユロ(10)、シユロ(6)】
*魔法【雷撃】
*武器【死告嘴、十字弓(術矢装填済)、起術矢(7)、虫矢(2)】
*薬【病気治癒1/2、傷治癒2/3、怪力、シユロ灰汁(4)】
となっている。南風鞭+と黒矢二本は、バッグに収納した。南風鞭はすぐに使えないし、黒矢も鏃を保護しておけばまあ大丈夫だろう。
スペースを一つ開けておくのは、いざという時に敵の武器を収納するための常套手段だ。この指輪、もう少し入れられたらと思うけど、贅沢は言えないもんな。
魔法なんて空きスペースがいっぱいあるから、そこを有効活用したいけど、ジャンルまたぎは無理だし仕方ない。また有用な魔法を採取したいものだ。危険な目にあうのは嫌だけどね。
「さて、明日からの予定だけど」
きた! とうとう旅に出るのか? どこに向かうの? なんかワクワクするんですけど。ちょっと不安、期待感大って感じで胸躍らせていると、
「修練を始めるぞ!」
ええ〜っ、また修練かよ? 地味いなぁ。
〝アホか! 折角の修行のチャンス、活かさない手は無いわよ!〟
まじかよ。
「狩りに出るにしても、最低限の能力が要るからな」
と真顔の音無に告げられて、多少浮ついた気持ちが醒めた。
「で、その能力とは?」
「まあ沢山あるけど、先ずは隠遁と索敵だな」
そうか、上級者である音無の邪魔にならないようにするには、最低限の隠遁能力と索敵能力は必須か。しかし……
「そんな簡単に身につくものなの?」
と聞くと、うっすらと口角を上げた音無は、
「ちょうどいい物がある、明日を楽しみにしておけ」
と言って去って行った。能力を簡単に身につける方法? ウウム、何か怖いなぁ。




