術矢について
その後、リー師による講義が続いた。簡単にまとめると、術矢とは基本、棒の部分(矢柄)に呪物を仕込んだ物らしい。呪物とは、先の黒子汁のように、呪いの効果をもたらす物品らしく、矢に仕込める物は小さくなるため、それほど広範囲に威力を発揮することはできないが、手振り紐などよりも、より遠くに射出できる利点があるらしい。
十字弓を取り出してあてがってみると、一番太い矢は装填できないサイズだった。これはもう一回り大きな、機械式の巻上げ機付き弩で射つらしい。
それ以外の十字弓で射つ事のできる術矢は四種類。一つは起術矢と呼ばれる、他の呪術の起爆剤的な役割を持つもので、先に俺にも支給された物だ。
その他三種類は、黒子汁をさらに煮詰めた黒子粉なるものを詰めた黒矢と、呪い虫と呼ばれる甲虫を収めた虫矢、そして呪い石でできた石矢だった。
黒矢は分かりやすい。シユロを煮詰めて、さらに呪術をかける事でできた黒子汁を、さらに希釈した黒子粉が、命中と共に体内に放たれるというもの。先の狩りで使用した手振り紐のような、広範囲を巻き込む威力はないが、射程が長く、上手くすれば体内で破裂させる事ができ、単体に対しての高ダメージを期待できるらしい。
虫矢というのが変わっていて、鏃の根元、矢柄の中に開けた空洞に、呪い虫という特殊な甲虫を半死状態で埋め込んで、対象者の血が、矢柄に空いた小さな穴を通して感知されると、活性化して体内で暴れるという仕組みらしい。
呪い虫の作製方法というのは……後から思い出しても吐きそうなほど酷いものだった。うん、思い出したくもないので、この話はこれくらいにしておこう。
飼育する箱には、死と腐敗と怨恨が坩堝のように、重く鈍く沈殿し、そのスープが放つ異臭で胃の中の物を全部吐き出してしまった、とだけ言っておく。
その呪い虫にもランクがあるらしく、扱いを間違うと非常に危険なため、集落でも限られた者にしか扱いを任せられていないとの事。逆にこれを扱える者は、一人前扱いを受けるために、狩人の中には『呪虫』という称号があるとのことだった。
石矢に使われる呪い石というのは、希少な受呪魔石と呼ばれる、ある種のモンスターから取れた魔石を加工して作られた呪物で、それ自体を鏃として使用するものだった。
これの凄い所は、石の等級にもよるが、ありとあらゆる呪術を込められる点にある。つまりリー師が長年かけて練り込んだ石矢などは、その威力も計り知れず、下手をすれば死告鳥の黒呪をも軽く凌駕する呪いを発動できるらしい。
たぶんこの三種以外にも種類は存在するのだろう。その事実は隠さずに告げられたが、現段階ではここまでしか教えられないとの事。ここまででも相当な秘密事項らしく、部外秘どころか、知ったものは生きて帰さないらしい。
その点を強調するリー師が、石矢を振りながら力説するので、生きた心地がしなかった。
さらには矢柄や矢羽にもランクがあり、それらを組み合わせると、何万通りの術矢が出来上がるらしい……確かに優れた武器だが、それらを丁寧に説明されたために、頭痛がしてくる。
「さて……」
と立ち上がりかけたリー師。終わったか? と期待した俺に、
「ここまで聞いてきた事についての、危険性をきっちり教えるから、後は弟子に任せようかの?」
と言うと、ギョロリと目力の強い中年男性を紹介した。まだ続くのか……いい加減勘弁して欲しいよ。と思っていると、
〝……〟
サバ姉の無言の圧力を感じる。分かりましたよ、頑張りますよ、しっかり学びますよ。あ〜あ、ヘタちゃんみたいな可愛い子が教えてくれたら頑張れるのになぁ。




