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ビンタ

 〝馬鹿っ、やっぱりあんたは馬鹿ね。この集落で一番得たい能力は?〟


 術矢? 戦闘方法? いや生存能力かな?


 〝それらの根幹となってる呪術でしょ! こんな中枢に案内されて、トップに聞けるなんて事ないわよ! 頑張って情報を引き出しな、そして繋がりを作るんだよ〟


 そうか、人脈ね? もちろん呪術は聞こうと思ってたよ。黒子汁とか、シユロの灰汁アクは沢山持ってるしね。


 〝いいかい? さっき音無が言ったみたいに、部外秘なんだから、無理やり聞き出すような無粋なまねはせずに、一つ一つ、根気よく聞いてみるんだよ。シユロの灰汁の件みたいに、秘密ではない事も多いだろうからね〟


 そうだな、先ずは相手の出方を見よう。聞き出せる事と、秘密事項を明確にするだけでも意味がある。


 二人に連れられて、さらに奥の間へと通されると、小さな作業台の上には、いくつかの術矢が並べられていた。


「長から許可を得たから、お前に占婆の呪術のさわりを教える。先ずは一番使用頻度の高くなる術矢からだな」


 音無が説明すると、御万干のリー師が進み出る。因みに御万干とは、ひたすら薬草を干し、煎じた数の多さ、つまり経験値が一番高い事を示す、名誉称号らしい。


「先ず初めに、ご先祖様と迷い人様へのご祈祷を捧げる」


 いきなり口を開いたリー師は、俺のみぞおちに拳を当てると、素っ頓狂な声で、


「呪いは怖い! 呪いは強い! 呪いは酷い! 呪いは少し!」


 と体に見合わぬ声を張り上げた。え、何? 怖い。


「秘言語ニホンゴだが、迷い人たるお前さんなら理解できるじゃろう?」


 と真顔で聞かれる、ええ、わかりますよ。意味は分かるんですが、これをやる意味が分かりません。


 コクリと頷くと、ギロッと見すえるリー師が、


「呪術とは、人の念を込めた必殺の術じゃ。しかし中途半端にかけたり、跳ね返された時には、無防備な姿を突かれる、諸刃の刃でもある」


 息がかかるほど迫ってくる。老齢の真顔は怖い、そしてテンションが高過ぎる。


「つまりこの掛け声は、呪術の怖さを常に感じ、その利点を把握しつつ、あらゆる影響に想像を膨らませて、必要量ギリギリをもちいるべきであるという、ご先祖様と迷い人様の教えじゃ。分かったら歯を食いしばれ」


 え? 何? 歯を? グッと食いしばると、


「呪いは怖い」 パンッ!


 うおっ、ビンタかよ?


「呪いは強い」 パンッ!


 痛ってぇ、耳がキーンとする。


「呪いは酷い」 パンッ!


 くっ、鉄臭い、口を切ったか? ほっぺがジンジンする。


「呪いは……」


 くっ、と思わず目をきつく閉じたところで、


「少〜し」


 とほっぺたを撫でられた。


 ぐっ、これはこれで屈辱感。ホッとして、感謝しそうになる。


 目を開けると、ギロリと睨み付けてくるリー師が、


「分かる、な?」


 と問いかけてくるので、思い切り首を縦にふって同意した。すると、


「ふむ」


 と納得顔で机に向かう。ホッ、ここで分からないなんて言った日には、もうワンコースひっぱたかれるところだったのか?


 手で押さえるとホッペがジンジンと熱を持っている。血は口の中を切ったみたいだ。ポンッと肩を叩かれて振り向くと、


「まあ、儀式みたいなもんだ。御万干様のお話を聞く時の」


 と音無にいさめられた。え? 絶対に必要な儀式とかじゃなくて、個人の好みかよ? なんか釈然としないなぁ……まあ良いけど。


 テーブルに着くと、ズラッと並んだ術矢に目が行く。それぞれ太さも長さも、模様も違っていて、独特の美しさを持っていた。まるで伝統工芸品を見ているみたいだ。


「これの仕組みを教えよう。先ずはオーソドックスな術矢」


 これは知っている、先に支給された、俺も持っている奴だ。示された矢は分解できるようになっていて、やじりを抜くと、太い軸が二つに分かれる構造になっていた。


「これは見本だから、このように分かれる。さて、この部分が呪術の起動装置となっておる」


 と示された部分には、炭のような物が詰まっていた。


「何で出来ているんですか?」


 と質問すると、ギロッと睨まれて、手のひらを振り上げられた。ひっ、と防御の構えを取ると、


「せんよ、しかしそれは秘密じゃ」


 と頬を軽く撫でられた。くそっ、まるで子供扱いだな。隣に腰掛けた音無を見ると、またもや目が笑っていた。くそっ、楽しんでやがるな? 俺は膝で音無を小突くと、悪いとばかりに手を上げられる。


 ビクッとするじゃないか、やり辛いなあ、もう。

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