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ウゼエな

「で、奴から受け取った薬で命をながらえた訳か?」


 接子長の声が腹に響く。音無は黙って頷くと、他の接子達が取り繕うように、


「はぐれ集落にまで腐肉鳳が出没するとは、予想外で対処しきれませんでした。この不手際は我々の手落ちです。あの薬が無ければ、相棒は死んでいたかも知れません」


 先の狩りに同行した内、負傷していない方の接子が、平身低頭自身の非を詫びる。


「うむ、異常が分かった時点で引き返す選択もあった。しかし迷い人の査定を任じたのも我らならば、責をぬしらのみに問うのも酷というものだな。いずれにせよ迷い人が無傷で戻ってよかった。でなければ、占婆に何を言われるか、分かったものではないからのう」


 隣で聞いていた集落の長が、顎をさすりながら感想を述べる。後方でかしこまっていたギョロ見男に、


「で、間近にいたお前はどう見る?」


 と聞くと、


「迷い人は……確かに非凡な能力を持っています。特に十字弓の連射能力には驚きました。体力もそれなりにはあります。でもそれ以外は……音無の尻ばかり見る、助平男にしか見えません」


 と、顔を赤らめ、うつむきながら告げる。それを聞いた音無も、


「あれには参りました。まるでお尻に火がついたように、視線が熱かったもの」


 と迷惑そうに言った。だが今まで男を寄せ付けなかった音無にしては、嫌悪感をそれほど表していないのが鼻につく。


「ふん、これだから女は狩人に向かないんだ」


 と接子長が鼻息を荒くするが、音無は目を伏せてそれを聞くのみで、何も言わなかった。


「なるほど、多少色気が有る方がぎょし易い。音無もまんざらでもないのならば、一度折を見て誘いをかけてみても良いかも知れんな」


 という長の言葉に、


「なっ、あれはそんな輩ではありません。おっ、俺、私の事をからかって……」


 ギョロ見男が慌てていると、


「ウムウム、遅くなったのう。何やら女を道具のように扱う輩の声が聞こえたが、お主かえ? ウム」


 と杖をつきながら占婆がやってきた。後ろに控える世話人が、さっと座布団を敷くと「よっこらしょ」と声をあげながら、座り込む。


 それまで崩していた姿勢を整えた長が、


「しかしそれが一番手っ取り早いのも事実、音無でなければ、だれぞ集落の女をあてがってみるのも手かと。何せ本物の迷い人ならば、この地に留まらせるのが先結ですから」


 と占婆に持ちかけると、


「ウムウム、そんな事しなくとも、寝る場所と食事、それに我らの知恵を少しづつ分け与えれば、自ずと我が部族の一員となろうがのう、ウム。迷い人の神器には、下手な取り込みをかけるとすぐにバレるぞ、ウム。そうなって逃げられたら、目も当てられん」


 皺に隠れた目をいっぱいに開くと、長は腕を組みながら、


「そんなもんでしょうか? 適当に女をあてがおうという考えは通じないか。こちらの有用性を示しつつ、人の結びつきで引き留めなければならんとすれば、やはりここは音無に頑張ってもらわねばなるまい」


 と音無を見た。その視線は無感情で、日々の生活に充血しており、年月の重みにどうしようもなく凝り固まっている〝重力〟のようなものが絡み付いている。


 〝全くもって男共はウゼエな〟


 音無が吐き気を催しながら占婆を見ると、委細承知の柔和な顔で一つ頷かれた。その目には、


 〝ウゼエよな〟


 という共感の色が見える。それと同時に、ふと〝迷い人〟ナナシの軽さ、透明感が眩しく脳裏をよぎった。


「先ずはお役目を果たす中で、この集落との結びつきを深めていただくように心がけます。つきましては、こちらからの誠意として、ある程度の秘術、秘技を伝授する事をお赦し下さい」


 言いながら音無が伏せていた目を上げると、


「集落に伝わる秘術は、我らの生命線。外部の者に教えるなど、もってのほかだ」


 と接子長が目くじらをたてるが、


「ウム、その秘術のほとんどが、先代の迷い人のもたらした技術じゃよ、ウム。こうしてどん詰まりに追い込まれた我々に、新たな迷い人が与えられた。これもご先祖様のお導きではないかの? ウムウム」


 と言う占婆に言葉を失う。


「そこらへんの加減は占婆に任せよう、音無とよく話し合ってほしい。さて、本題である腐肉鳳が〝はぐれ〟になって出た件だが……」


 ーーその後も話し合いは続き、集落の夜は更けていった。

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