表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/78

本気の音無

 え? 行くぞって、俺?


 どうして良いか分からずにいると、その言葉を受けて動いたのは、後ろに控えていたギョロ見男だった。


 あ、こいつに言ったのね? 俺じゃないね?


 〝何やら緊急事態らしい。お前が出るとかえってややこしくなるから、ここで成り行きを見守ろう〟


 こうサバ姉もおっしゃっていますし、お言葉に甘えて、見学させていただこう。


 その頃には、音無もかなり離れた場所まで走っていた。その体から、たぎるように黄色い煙が立ち昇っている。


 さらに後続のギョロ見男の体は、目に見えて一回り大きくなった。何だろう、あれは?


 〝多分スキルの一種だね、ほら何か出てくるよ〟


 窪みから巨大な翼が見え隠れしだすと、もう一人その場に残された接子と争うように、腐肉鳥が姿を現した。だがまるで遠近感が狂ったかのように、その姿は大きく、まるで近くの接子がミニチュアのように見える。


 何だ? あれは?


 〝多分腐肉鳥の上位種、腐肉鳳ふにくおおとりだね。あれがはぐれたグループのリーダーとなって、ここまで繁殖の場所を広げてきたんだろうよ〟


 羽ばたくだけで、衝撃波が起こり、それでなくとも暴風にさらされている接子は、吹き飛ばされそうになる。だが接子も強者らしく、攻撃の隙をついては、接続式の短槍で反撃にかかる。ていうか、接子つええ! もう一人の吹き飛ばされた方も、自力で這い戻ってくると、後方から槍を構えて、投げつけた。

 見事に腐肉鳳の足に突き刺さると、もう一人も突進して、胴体を突く。


 だが、怒り狂った腐肉鳳は、一声吠えると、丸腰の方の接子に体ごとぶつかって行った。

 振り回す翼が岩棚を削る音が、暴風の隙間に聞こえてくる。


 傷をものともせずに、暴れまくる腐肉鳳。その近くまで素早く接近した音無は、黄色い煙のように見えていたものを、持っている筒に収束させると、口に当てて吹いた! 頭部に直撃したのは何かは分からなかったが、衝撃と共に黄色い煙が飛散する。


 〝吹き矢? いやあれはそんな生易しいものでは無いね〟


 サバ姉の解説中にも、苦しみのたうつ腐肉鳳を、後方から突進していったギョロ見男が取り押さえる。

 かなりのサイズ差があるにも関わらず、力任せに後ろから翼を掴んだ男は、背中を足蹴にしながらーーそれを折った。


「ギョアアァアァッ!」


 咆哮を上げる腐肉鳳の頭部にとどめを刺す槍持ち接子。だが次の瞬間、吹き飛ばされた方の接子は片膝をつくと、倒れこんでしまった。そのまま転がりそうになる男を、ギョロ見男が支え、こちらに引きずってくる。


 音無ももう一人の男も、腐肉鳳には目もくれずに引き返して来たため、暴風にさらされた腐肉鳳は斜面を転がり落ちていった。


「大丈夫か?」


 俺の所まで来たギョロ見男に聞くと、荒い息をつきながら、


「うるさい! どけ!」


 と邪険に払い、地面に負傷した男を横たえる。武装ごしに見る男の顔は、血の気が引いて真っ青になり、滲み出た血が地面に広がった。


「どうだ?」


 後から来た音無もその状態を見て顔をしかめる。どうやらひどくやられながらも、根性で戦っていたらしい。見ると先ほどまでテントで仮眠していた方の接子だった。


 すぐにテントが組まれ、その中で防具を外して中の様子を見る。すると胸から腹にかけて真っ赤に腫れ上がり、頭部にも打撲痕が見られた。腹部に出来た傷からはとめどなく血が溢れ出てくる。


「ここまで酷いと応急処置じゃもたない、手持ちの薬で一番薬効の強いものでも、ここまでの傷には焼け石に水だ」


 実際に軟膏を塗り、きつく布で巻いていくが、出血は止まらず、顔からはどんどんと血の気が引いていく。


「こっ、これを使ってくれ!」


 俺は指輪から傷治癒薬を取り出すと、音無に渡した。


 〝ばっ! 馬鹿! それはあんたの生命線だよ、何あげてんの?〟


 サバ姉が驚き反対するが、俺はもう決めたんだ。


「これは?」


 と聞く音無に、


「傷治癒の薬、傷口にかけてみて」


 〝さらに馬鹿、それは飲み薬だよ!〟


 薬の瓶を傷口に持って行こうとする、音無の手を制して、


「いやっ、飲ませてみて!」


 と指示する。いぶかしそうにこちらを見る音無に、


「飲み薬だった」


 とバツの悪い顔で告げると、


 〝半分以下で効くはずだ、少しづつ与えるように言いな〟


 と言われた内容も伝える。すると三分の一ほど口に含ませたところで、ホワッと光に包まれた男の傷が、見る見る回復していった。


 驚く音無から瓶を回収すると、指輪に戻す。見ると【傷治癒2/3】に減っていた。まあしょうがないな。


 〝馬鹿、なんで貴重な薬をこんな見ず知らずの奴に分けたりしたんだい?〟


 と言われてもなぁ……だってこのお兄さん、超カッコ良かったんだもん。


 〝……〟


 俺の思考回路に絶句したサバ姉を置いて、作業を手伝う。回復した接子をギョロ見男がテントの革に包むと、強風吹きすさぶ中、一同は集落へと撤収していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ