呪術ハンティング①
狩りといっても、闇雲に襲う訳では無いらしい。元々この地には、腐肉鳥の群生地があって、それはそれで正常な事だという。
しかし数が増えすぎると、生息地を拡大し、餌場として山岳民族のテリトリーをも犯すようになってくる。そうなって初めて討伐隊が組まれるとの事。
しかも今回の狩りは、俺へのサービス的な意味合いが強く、普段の半分以下の人員で行われる狩りには、ノルマのようなものも無いらしい。
名前の通り音も無く、はぐれ腐肉鳥の群生地から戻ってきた音無が、こちらに向かって合図の小型凧を上げてきた。
それに向かって進むギョロ見と俺。しばらく進んで、彼女達の潜む窪地に辿り着くと、
「ここに居て、我らの狩り方を見ておけ」
と言うと、肩に回していた十字弓を取り出して、術矢をセットした。術矢とは、鋭い鏃の根元を少し太くしてあり、その部分に術式が施されているらしい。
音無が流暢に弓を扱うさまを見て、今後の参考にさせてもらう。
他の二人を見て〝行くぞ!〟と目で合図した音無が、窪地を飛び出すと、他の二人も追っていく。え? そのまんま突撃するの? と思っていると、接子達が紐の先に玉を結び付けたものを、グルグルと振り回し始めた。あれは手振り包と呼んでいた物だな。
その玉は見る見る黒く染まっていくと、飛沫を放ち始める。まるで墨汁が滴っているようだ。それを腐肉鳥の方に投擲すると、風にあおられて、少し手前に落ちた。
失敗か? と思っていると、地面を染める黒が、まるで生き物のように広がっていく。それが遥か前方まで到達すると、
「グエエェェッ!」
と悲鳴(らしきもの)が上がり、真っ黒に染まった腐肉鳥が羽をメチャクチャに羽ばたかせて、岩棚に現れた。 その後に続く二羽も、ギャアギャアとうるさく暴れながら、岩棚を転げまわる。
狙いすました術矢を発射する音無。それが一羽を貫くと、まるで火の手が上がるように、黒い霧が舞い上がる。暫くして暴風に晴れた空間には、カラカラに干からびた腐肉鳥が転がっていた。
すぐさま接子達が近寄ると、胸元を捌いて魔石を回収していく。手慣れた作業なのだろう、余裕で戻ってきた男達の表情は、特段なんの感情も見られなかった。
何あれ? 怖い。あれが呪術なんだろうか? いざとなれば指輪で吸収できるだろうが……そういえば死告鳥の黒呪ってのは、魔法カテゴリーに分類されていたのか、呪術という新カテゴリーに分類されていたのか? 分からないな。今度簡単な術で検証したいところだ。
「簡単だろ?」
戻ってきた音無が告げる。確かにあなた達がやる分には簡単そうだけど、熟達者の作業というのは、得てしてすごく簡単そうに見えるものだと思う。それを初見の俺に求められても……ねえ?
「もしも呪術で仕留め切れなかった時はどうするの?」
と近づいて来るまで待って、音無の耳元で聞くと、
「その時は、あれ」
と接子の背負う武器を指差した。そこには差し込み式の二つ折れ短槍が仕込まれている。
やっぱり? 接子というからには、接近戦闘もしなければならないのか。大変な役割だなぁ。皆が殺気立ったり、尊大な態度になるのも分かる気がする。
と、見ていると、先を確かめに行っていたもう一人の接子が、信号凧を揚げてきた。その色を見て、
「あそこにも集団! ナナシ、行け!」
と十字弓を掲げる音無。ウムム、やるしか無いか。地上で数度扱いを習っただけなのに、すぐに実戦で通用するとは思えないが、まあやれと言われればやるしかない。
割り切った俺は、音無に従って、岩棚を這うように進んでいった。




