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口だけ番長

 革のテントを出ると、相変わらず吹きすさぶ強風にあおられる。荷物をほとんど持たない俺でも大変なのに、薄いとはいえ、大型のテントをバラして、荷物にしまい込む男たちの手際に感心して見惚れてしまった。


 〝ほれ、あんたの番だよ〟


 腰にしつらえた鞘から、サバ姉が教えてくれる。見ると、音無がこちらを向いて、俺が追ってくるのを待っていた。


 うむ、辛い行程だが、もうしばらくこの尻に癒されながら進むか。なんというかこの女の尻は、小からず、大きすぎず、割としまった体つきに見合わぬ、安産型で……ようするに俺好みなのだ。


 だがそんな余裕を持っていたのはほんのすこしの間だった。今までよりもいっそう風が厳しく、気温は低く、足元は険しくなる道のり。はっきり言って終わりがいつか分からない。


 弱音は吐けない。なぜならここで俺の強さ、有用性を男どもに見せつけなくてはならないからだ。一旦〝こいつは使える〟と認識されれば、これからの集落で過ごす時間が有意義なものになるだろう。何せ俺には学ばなければならない事が沢山あるのだ。占婆の知識などは喉から手が出るほど欲しい。だが逆に〝こいつヘタレだな〟と思われたら……そんな奴に教えるだけ無駄だと思われてもいたしかたない。


 歯を食いしばり、苔に滑る足場を這いつくばって進む。そろそろ手足の感覚が無くなってきた、そんな時、冷たい空気をつんざく、


「グエェェェッ!」


 という鳴き声が聞こえてきた。これは以前にも聞き覚えがある。あのバネ蟻に食われた時の気持ち悪い鳥の鳴き声だ。


「ーーっとーーてーー!」


 全然聞こえないよ。強風の中、前を行く音無に近づくと、


「なー! にー!?」


 と耳元で叫ぶ。すると、


「ここまで! テリトリーが! 広がっているのは! 異常だ!」


 と耳元で叫び返してきた。風と大声で耳がキーンとする。


「ど! う! す! る! の!?」


 ドサクサに紛れてキスしそうになりながら、音無に聞くと、


「お前! 待機! 私達! 下見!」


 と男二人を選抜して、前に進んでしまった。取り残されたのは俺と、余分な荷物を託された……ギョロ見男だ。


 その時、強風に煽られて、体が浮きそうになる。うわっ! と掴んだのは、ギョロ見男の腕。そのまますがるように掴んでいると、グイッと地面に体を押し付けられた。


「どっ! どうも!」


 とお礼を言う俺に、被さるように顔を近づけた男は、


「調子に乗るなよ! それと音無にあまり近づくな!」


 と臭い息でがなりたててきた。おお、お熱いこって、分かりますよ、あの尻ですもんね。うん、惚れるには充分だ。

 若気の至り、その塊のような青春野郎に、眩しいものでも見るような視線を向けると、


「なっ、なんだ! 気持ち悪い!」


 と乱暴に掴んでいた手を払われた。いやん、そんないけずせんとって。ニヤリと笑った俺は、男に擦り寄ると、


「今度こっそり音無に、脈があるか無いか聞いてやろうか?」


 と耳元で囁いた。こんな強風にも関わらず、小さな声を聞き分けた男は絶句すると、


「うっ、そ、それは……」


 とうつむく。そこへ、


「なあに、聞くだけだからさ、遠慮しなくていいよ、ね?」


 と絡みつくと、


「じゃ、じゃあお願いするっす」


 と顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。か〜わゆい! お兄さんがバイセクシャルなら確実に食べちゃうな。


 〝お前……そんなキャラだったのか?〟


 サバ姉が一歩も二歩も引いた口調で尋ねる。いやいや、残念ながら俺はノーマル・セクシャリティーですよ。単に初心うぶな奴に萌えるだけで。


 〝……〟


 サバ姉も黙った事だし、これで集落での楽しみも増えた。と戻ってくる音無を確認して、ギョロ見男の尻を叩くと、


「さあ、狩りの時間だ!」


 やり方も分からないのに、口だけ番長と化した俺が、偉そうに場を仕切ってみた。

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