革のテントはやっぱり臭い
恐ろしく吹きすさぶ外と打って変わって、テント内部はすでに暖かく、簡易の灯りの下で集う皆の顔にも安心が見て取れた。
岩棚に張り付くようにして設置されたテントは、とても薄く狭いが、その事がかえって親密度を上げる効果をもたらすのかも知れない。
俺の後からも一人、入り口で睨みを効かせてきた男が入ってくると、バタバタとたなびく入り口を縛る。
うん、睨まれてるね。前言撤回、狭いテントが距離を縮めさせて、とても居心地が悪い。
鞄から支給された水筒を取り出し、
「どうっすか?」
と勧めてみるが、ムッと水筒を見るだけで、返事もしない。なんだ? 喋れないのか?
「その子は放っておいて、悪い奴じゃないんだけど、 少し、ね」
という音無を、男はムッと見るが、その視線には俺の時のような力が無い。なんとなく彼女に気があるのかな? という雰囲気が伝わってくる。そういえば俺は彼女の尻ばかり見ていたから、後ろから付いて来た彼からすると、気が悪いかも知れないな。
半笑いで生暖かい視線を向けると、こちらには容赦の無いムッが向けられた。
「そ、それにしても立派なテントだね」
と音無に向かって話を振ると、
「うむ、雪獣の毛皮に骨で出来ているからな。軽くて丈夫この上ない。さらにカモフラージュ効果と、いざという時は防具としても使える代物だ」
と言われて、へ〜っと思いながら裏革をよく見る。ツヤのある革は硬くもしなやかで、それにとてもケモノ臭かった。
「それって高級なんでしょ? どのくらいの耐久性があるの?」
「そうだな、過去に草原の民が大挙して攻めてきた時、これを数個集めて砦代わりに待ち伏せして、全滅させた事がある。魔獣の骨と革は、鉄よりも軽くて、鉄よりも強靭だ。その分雪獣自身も強いがな」
と、ここで気になる単語が出てきた。ご近所さんである草原の民。どうやら彼らとは交戦状態のようだが……
「で、平原の民って奴らは、どうやって生き延びて来たんですか?」
村長から支給された麻布のような生地の服、それで垂れる鼻を擦りながら聞いた。その上から南風獅子の鎧服やブーツを装着しており、没収されそうになっていたそれは、きちんと洗って干されていたため、元の臭いは大分とましになっている。
「奴らは呪術を基に、モンスターの力を取り込んで生き延びてきた。我々が呪獣と呼んでいる、怪物の力を宿した人間達だ。呪いの影響から、大変危険で厄介な性格の集団になっている」
音無の説明に、ヒャッハーなモヒカン種族を想起する。こんな極限サバイバルな世界で、お隣さんが半怪物の無法者集団(推測)とか、そりゃあ仲良くはできんわな。
「草原の民の王とか、筋肉モリモリでマスクとか被ってます?」
という俺の質問に音無が、
「草原の王? シンの事か? マスクなどは被らんが、頭部から顔面にかけて、大きな刺青が入っているな」
と答える。おお、そっちか、草原の覇者シン……俺の頭の中で、ゴリマッチョに革ジャンを身につけ、草原をヒャッハーするお兄さんキャラが生まれた。




