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役割と駆け引き

「と、いうのものう、死告鳥にはあれなりの役割が有ったんじゃ、ウム」


 という占婆の話によると、最強個体たる死告鳥は、増えすぎるモンスターを間引き、地域一帯の安定を司る役割を担っていたらしい。食物連鎖の頂点である者には、それなりの存在意義がある。元の世界でも、そうだった気がするなぁ、だとしたら……


「それは、余計な事をしてしまって、申し訳ありません」


 何となく掴むタイミングを逃した、サバ姉の柄を見ながら頭を下げると、


「ウムウム、いいんじゃ、いいんじゃ。あれは強うなり過ぎた。そろそろ集落にも危害が出そうじゃと、対策に苦慮しとったんじゃ、ウム。音無を監視にやりつつも、隙あらばくびり殺せと伝えとったでな」


 ニパッと笑う占婆、こう見ると可愛いお婆ちゃん然としているが、くびり殺せとかその顔で言われたら、ギャップが怖すぎる。


「でも私が手を出せるようなレベルではありませんでした。例え集落の秘儀を使っても……」


 と言う音無に村長が、


「ばっ、そんな簡単に口にして良い事ではないぞ」


 の血色ばむが、


「ウムウム、いいんじゃよ。そこらへんの事は、迷い人にはすぐに伝えるつもりじゃったからのう、ウムウム。でナナシよ、これは要るのか? 要らんのか? ウム?」


 占婆がサバ姉を突き出してくる。気が変わる前にと、慌ててその柄を握ると、


 〝馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿っ! バ〜カッ〟


 頭にガンガンとサバ姉の念話が響いた。さらに俺の手から取り上げる時に、サバ姉を蹴った音無に対する罵詈雑言が延々と続き、最後には、


 〝ふざけんじゃねえ! 死にたいのか馬鹿!〟


 と俺への叱責に戻ると、急に黙り込んだ。ホッ、少しは落ち着いたか?


 〝ふざけんじゃねえ! 落ち着くか、馬鹿馬鹿馬鹿……〟


 馬鹿が重なりすぎて、もはや気にもならなくなってきた。なんならこの耳鳴りのまま、一生生きていける気がする。そんな妄想に浸っていると、


「大丈夫かの? ウム」


 無言で固まる俺を覗き込んだ占婆が聞いてくる。


「ええ、大丈夫です。このナイフ、サバ姉って呼んでるんですがね? お小言を頂いている最中でして」


 と苦笑いすると、何となく緩い空気になって、皆もつられて苦笑した。


「集落の中に溶け込む気があるなら、己の存在価値を示さねばならない。それは分かるかな?」


 しばらくして、落ち着いた頃を見計らった村長がきりだす。それはそうだろう、どう見ても余裕のある生活ではなさそうな集落の民。周囲は過酷な環境である。余所者にただ飯を食わせる余裕は有るまい。


「ウム、そこで死告鳥の代わりに、モンスターの間引き作業をしてもらいたいんじゃ、ウム。なに、次の遊撃個体ユニーク・モンスターが育つまでの話じゃよ、ウム」


 遊撃個体とは、死告鳥のように土地に縛られず、優れた魔石を狩るモンスターの事らしい。その個体が死んでも不思議な事に、何故か次代の遊撃個体が現るという。

 今回は俺が予定外に死告鳥を殺してしまったために、その間の繋ぎとして、働けという事か。なるほど、筋は通っているな、サバ姉はどう思う?


 〝馬鹿馬……そうね、死ぬほど馬鹿な貴方は、レベルアップして死ににくくなるしかないかもね。いいんじゃない? 死ぬかも知れないけど〟


 おお、サバ姉が何となく突き放した事を言う。悲しいねぇ。


「補助として、集落一の狩人である音無を付ける。どうだ? やってくれるか?」


 村長の一言に音無を見ると、小さく頷かれた。うん、頼もしい相方が凛々しくも美しい女子とか、何かやる気が出てくるな、サバ姉?


 〝こいつらの目的はそれだけじゃ無いね、モンスターの産する魔石が目当てか?〟


「魔石?」


 思わず聞き返した俺の言葉に、


「ウムウム、中々鋭いねぇ、そうじゃ、この集落を支える結界には、多くの魔力がいるんじゃ、ウム。それを供給する地脈を制御するには、魔石が必要なんじゃ、ウムウム」


 占婆が嬉しそうに笑った。その口には二本しか歯が無い。そこまで無かったら、却って全ての歯が無い方がいいんじゃないか? と、要らんことを考えつつも、


 〝そこらへんの契約内容は、キッチリ決めておいた方が良いよ。後からトラブルになるからね〟


 と言うサバ姉の意見を代弁して、占婆との駆け引きが続いた。白熱する老婆とナイフの間に挟まれて、肩身を狭くする俺。最後には意気投合した占婆と、サバ姉の代わりに硬い握手を交わす。


 なんだろう? 俺を置いて話が進んでいくな、まあ別に文句は無いんだけど。

 手持ち無沙汰に左手の指輪をなぞっていると、村長と目が合った。問いかけるような目を向ける村長に、


「一つお願いがあるんですが……服、貸してもらえませんか?」


 南風獅子の鎧服を剥がされ、全裸の俺は、クシャミを放ちながら懇願した。

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