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占婆

「お主達ぬしら接子長せっこちょうの許可は得ているのか!」


 怒鳴りつける音無が、俺と男たちの間に入ろうとして、押さえつけられる。その前で、無様に転がされた俺は、再び土を噛んだ。

 セッコチョウというものの意味は分からないが、この男たちを統制する者なのだろう。


「うるさい! 親方は何も言ってはおらんが、掟は掟。余所者は排除と決まっている」


 興奮した一際大きな男が、音無に迫った。大人と子供ほどの体格差で、見下ろすように威圧するが、音無も毅然とした態度で睨み上げる。

 こんな時になんだが、後ろに束ねた髪が逆巻いて、凛々しくも美しいぞ音無……そして俺のために頑張れ! そんな不埒ふらちな事を考えていると、


「アホ共が! 何しておるか!」


 轟くような声が響き、俺を押さえつけていた男共が、弾かれたように直立した。


「親方様、かっ、会議は終わりましたか? ならば早速こいつをひったてて……」


 という男の声を制して、


「馬鹿者! ワシがこんな事を望んでいると思ったか。この考えなし共が!」


 通路からやって来た男が、一人一人の頭を殴っていった。鈍い音が心臓に悪い、その度に「ぐうっ」とか「いぎっ」とか、大の大人が本気で痛がる声が漏れる。こいつがセッコチョウか? と勘ぐっていると、


「ウムウム、何を早合点しておる? そちらの迷い人殿は、我が集落の客人じゃ。掟を守るならなおの事、そのような振る舞いはゆるさんぞ、ウム」


 さらに後ろの婆さんが告げると、親方と呼ばれた体格の良い男も傍に控えた。

 その言葉をすぐには理解できない様子の、俺を取り巻く男達も、真ん中に立つ婆さんには逆らえないらしく、通路の端で小さくなる。どうやらこの場で一番偉いのはあの人らしいな。


 音無は俺の側に屈み込むと、


「今から占婆との話し合いがある。この建物は全て封印術の範囲内だから、魔法の行使は諦めろ。そして話せば分かるだろうが、我らに危害を加える気はない。だが変な動きを見せたら……」


 と腰の剣鉈を誇示して、


「分かってる……な?」


 と目を覗き込んでくる。


「も、もちろん、こっちも話したい事は山ほどある。おとなしくするから、このいましめだけは解いてくれないか?」


 と懇願する。振り返って後ろに控えるおばあさんを見た音無は、了承の意を得たのか、剣鉈の一振りで俺の手足の捕縛を解いた。


 久しぶりに自由を得た手足をさすっていると、


「ウムウム、お主はどこから来た迷い人かのう? こんな所ではなんじゃのう、ウム、ワシの居室に来るがええ」


 早速言われた通り、おばあさんの後について歩き出す。真っ暗な通路は土の臭いが充満して、まるで地下のトンネルを進んでいるかのような錯覚を覚えた。


「ウムウム、さあここじゃ、皆の者はここで待つがええ。村長に音無や、お前さん達は、ワシと一緒に入ろうかえ、ウムウム」


「ですが占婆様、この者が安全とは思えません、なにせ死告鳥を倒した者ですぞ。我々の護衛なしではーー」


 息巻く接子長の肩を叩いたお婆さんは、


「ウム、大丈夫じゃ、のう?」


 とこっちを見た。俺が慌てて頷くと、疑わしい目を向ける接子長が、名残惜しそうにしながらも一歩下がる。そんな居心地悪い空気の中で、部屋に足を踏み入れると、そこは石板で区切られた大きな部屋だった。


 流石は集落のトップ、立派な部屋の奥に鎮座する祭壇は、年季が入り過ぎて、オドロオドロしくて気持ち悪い。何かの御神体だろうか? 煤に黒光りする像が、不気味な視線を放つ。


「ウム、そこに座るがええ、ウム」


 と勧められた場所に腰を下ろすと、向かいに腰掛けたお婆さんが、


「ウムウム、お前さんには色々と聞かねばならぬのう、ウム」


 と目を見開いて身を乗り出してきた。皺に隠されたその瞳は、とても乾いた冷たい光を宿し……その眼光に射すくめられ、金縛りにあった俺の口は、だらしなく弛緩しかんした。

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