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ご対面

 牢屋の鍵を開ける女、この音からすると、木製の扉に金属の錠前が付けられているようだな。という事は、金属器を使えるほどの文明はあるようだ。


 落ち着きを取り戻そうと、なるべく全てを分析的に見ようと努力する。なにせどんな小さなきっかけで死ぬか分からない状態だし。魔法が反射して〜って話も、全くの想定外だったし。ここは迂闊に動くべきではないな。


 女は灯りを壁の金具に差し込むと、木戸をくぐって近づいて来た。それほど大柄でもなく、小柄でもないな。顔は角度がきつすぎてよく見えない。というかどれだけ頑丈に縛ってるのか? 身動きするのも一苦労だ。


「すまん、今はまだその捕縛を解けない。口だけは自由にしてやるから、後ろを見せろ」


 と刃物を手に近寄ってくる。逆光で影になった顔が怖い。身を固くする俺の後頭部で、ロープを切る「ブツッ」という音が響いた。急いで口の中の結び目を吐き出すと、思い切り息を吸い込んだ。地面に近い埃っぽい空気をまともに吸い込んでむせ込む。それによりさらに舞ったホコリで、視界も霞んだ。


「落ち着いて、私の言葉は分かる? そして喋れる?」


 と聞かれて、


「はい、分かります」


 と答えた。多分異世界の言葉なのだろうが、日本語をしゃべるように、普通に会話ができる……ありがとう言語ポーション。


 俺の返事を受けた女と一瞬目が合う。間近でみる大きな瞳は理知的で、内面の落ち着きを表していてホッとした。


 俺の安心を見て取った女は、


「あなたは誰? 何をしにここへ?」


 と聞いてくる。正直言葉に詰まった。誰って、名前も思い出せないのだ。分かるのは、ここから見ると異世界である地球の日本から来たという事。だがそれをどう説明したものか? さらに何をしにって……


「生き延びる、ただそれだけで精一杯です」


 この際小細工は抜きにして、本音を口にした。さて、異世界うんぬんはどう説明しようかな? と思っていると、


「迷い人、他の世界から来た……か?」


 と思いがけず真相を突かれた。動揺して思わず、


「なっ、何で?」


 と口走ると、


「この秘言語〝ニホンゴ〟を理解できるのは、迷い人か、後継たる我ら山岳民族のみ」


 と言って、ニヤリと口角を上げた。引っ掛けられた! それにしても日本語を喋れるとは、後継ってことは、先祖に俺のような奴がいたのか?


 驚く俺に、理解する時間をくれた女は、


「私はヒッジの娘ヅチ、この集落では音無という称号で呼ばれているわ、ちなみにこれはこっちの言葉だけど分かる?」


 と自己紹介してくれた。俺は……


「はい、分かります。俺は名無しの迷い人……ですかね?」


 自己紹介が疑問形とかあり得ないが、こうとしか言えないな。この際名無しを名乗っていこうか。


「いかん、名無しでは魂を吸われてしまうぞ。何か程よいものを適当にでもつけられよ」


 と言われてもなあ、名無しはナナシでいいか、呪いとか魔法のある世界だ、名無しがやばいとか、迷信ではなく、本当の事なのかも知れない。


「じゃあナナシでお願いします」


 と言うと、後方から物音が聞こえてきた。更に複数人の足音が近づいてくる。振り向いた音無のヅチが、


「お前ら、何のつもりだ?」


 と血色ばんだ所に、


「うるさい! 我ら山岳民族の掟は絶対だ」


 と言って、複数の男共が音無をはねのけると、乱暴に俺を掴んで、牢屋から引きずり出した。

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