メッセージ♡
気づくと草原の中に立つ俺。って誰? 分からん、何も分からん。
素っ裸だから、身元を確認する術も無い。
〜〜ビュウウゥ〜〜
さぶっ、吹きすさぶ風が冷たい。股間に揺れるものがあるから、男だな。確認する左手薬指には、地味な銀色のリングが一つ……
その瞬間、
【便利な指輪*】
というイメージが頭に浮かんだ。それは消えることなく、どこを見ても、頭をふっても確固として存在し続ける。
便利な指輪? と思って、親指でリングをこすると*の部分が五つに分かれて緑に瞬いた。
その後ろには、それぞれに文言が続いている。
*メッセージ♡
*食料
*魔法
*武器
*薬
メッセージの後にある♡がピンクに瞬く。まるでココ、ココ、と急かすようだ。
意識したとたんに*が六方に散って、男の声が頭に響く。
「青年! 無事着いたか青年! お前の望みだ、便利な指輪を受け取れ。一気に言うから良く聞け、一度しか言わんぞ」
ここで少しの間が空く。俺の喉がゴクリとなった。
「この指輪には五種類の物品が収納できる。消費されたら消えるから、先ずはメッセージ分の空きができたな。一種につき五つのものが入れられるから、五つに五つ、合計25個収納可能だ、分かりやすいだろう? 種別はおおざっぱだから、使いながら考えろ、青年。念じると指輪をはめた手に収納できるし、同じく具現化するぞ。消費しなければ何度でも収納できる。ここまでは良いか? 青年」
うおお、理解……なんとか理解した、か? 男の声は俺に構わず続く。
「私は親切だからな、食料と薬はすでに五個づつ詰めておいたぞ、感謝しろ。後はここが肝だが、薬や魔法など、必要な時には自動的に中の物が消費されるからな。これの便利さは後から分かるであろう。後は入れた物はその状態が保存される。そして生き物は入れられん、微生物くらいは良しだ! まあそこら辺は分かるだろ? 適当だ。以上! さらばだ青年」
と言うと、まてど暮らせど、それ以上のメッセージは無かった。
混乱……それしかないな。そこに再び訪れる静寂ーーその中で、指輪に触れながら*食料を意識すると、
【リンゴ、五穀米、イカ、柿、キッシュ】
とあった。おいおい、しりとりかよ。収納にそんな縛りがあるのか? 単なる神様(自称)の趣味か? そう願いたいが。
そう思いながら、イカに意識を向けると、左手にヌルリとした生イカが現れた。
草原に立つ素っ裸の男、その左手には生イカ……
混乱が混乱を呼ぶ展開に、そっと生イカをしまった。指輪に。
うん、しまえるな。よかった、良かったよ。
次に*魔法を意識すると、
【】
うん、何も無いな。*武器も同じく。次に*薬を意識すると、
【ポーション(赤)(青)(緑)(黄)(黒)】
とある。うん、わからん。試しに(赤)を具現化しても、瓶に詰まった赤い薬品が出るだけだった。
同じくガラスっぽい物でできた蓋をとって、匂いを嗅ぐと……!!
うくっ、とても飲める気がしない。敢えて例えるならば、タバスコの中にハバネロと酒と火薬とアンモニアを混ぜたような……とにかくヤバイ臭いがした。
これもそっとリングにしまう。と、やる事が無くなった。
おい、何が便利な指輪だ? コンビニエントのコの字も無いぞ? これで異世界を生き抜け? ふざけてるのか? と思っていると、
「あと一つ、オプションとして、地面に埋めといた物がある。これが無いとすぐ死ぬから、早く掘り返せ」
という神様(自称)の声の後、今度こそ何かが途絶えた感じがした。それは例えるなら、電話の電源が落ちたような感覚。今度こそ一人取り残されたのだ、異世界に、たぶん。
俺は最後の言葉を理解すると、すぐさま地面を掘りだした。