ふやけた足がくっっっさ〜〜〜っ!
突然硬化泥弾のドームが解除された時、俺はうつらうつらしていたのだろう、心臓が止まるかと思ったが、何とか体が枝に引っかかり、落下する事をまぬがれた。
周囲を見回すが、来た時同様何も異常は見られない。どうやら朝方のようだ。露に濡れた雑草が、キラキラと朝日を反射していた。
ひんやりする風に、体のあちこちがまだ濡れている事を知る。特に酷いのは、やはり靴の中だな……俺は意を決して南風獅子の肉球ブーツを脱ごうとして、肌と同化したかのようなそれと格闘した。
半ば引っぺがすように取ったブーツの中には、真っ白にふやけて、自分の物とは思えない右足。
その臭いは、南風獅子肉球の生臭さとあいまって……くっっっさ〜〜〜!! 筆舌に尽くせぬ、壮絶なものになっていた。
反対側のブーツの中身も、同じようなもので、むき出しになった足を、感覚が戻るまでよく擦り込む。グーパーしてる内にほぐれた足を、乾かす時間も無いと、泣く泣く元の肉球ブーツに押し込む。
それ以外にも荒れた肌に鎧服が擦れ、全身の骨が軋む。あと言語ポーションの後遺症だろうか? 頭の芯もズキズキと痛んだ。
〝しょうがないよ、かなり効果的な能力と引き換えに、脳内が引きちぎられんばかりにフル稼働したんだからね。実際脳の伝達器官の一部は焼き切れて、代謝されているはずよ〟
えっ、何だって? 脳の一部が焼き切れるって、機械じゃあるまいし。
〝まあそんなもんよ、貴方の体はもはや普通の人間のものでは無いわ。レベルアップなんて概念、普通にある訳無いでしょ?〟
おおう、何だか説得力があるな、まあこの際、人間だろうが、亜人間だろうが、細かい事はどうでも良いが。
〝そうそう、あなたのそういう軽い所は美点だわ。ついでに言うと、何かに監視されてる気配があるから、要注意よ〟
サバ姉よ、そういう事は早く言ってくれ。
俺はそそくさと大木を降りると、岩肌の目立ち始めた山に向かって歩き出す。
途中でなるべく身を隠せる場所を探したが、結構見晴らしの良い岩場しかなく、致し方なく目的の山頂目指して、一直線に歩いた。
右か? 左か? どちらから見られてる? どんな奴が?
警戒心から挙動不審になり、肝心の前方が不注意になっていた。
そのまま大きな岩場を無造作に回り込んだ時、そこに居たのは、人間大のサソリの様なモンスター、では無く、その死骸をついばむ、死告鳥の姿。
〝なっっ!〟
サバ姉の絶句が耳をうつ中、目の前の巨鳥は長い首を持ち上げると、こちらを振り向き、
「クエェ〜ッ!」
と鳴いた。




