戦闘→消費
咄嗟に受けた左手の指輪に、流れ弾ならぬ流れ魔法の雷撃が収納されていく。
びびって目をつぶっていた俺が、ゆっくりと開けると、その向こうには体をぶつけ合い、雷撃を放射させながら、巨体を絡めあって水面を激しく打つ、二匹の雷魚竜がいた。
その害が及ばないように、植物の後ろに隠れながら避難する俺の前に、サンダー・バードが三羽、水面ギリギリに滑空して来た。
その見た目は、薄い銀色の金属板で覆われた、ツルンとした鷹のようである。鋭い嘴を持つ頭部には、雷と同じ青い光が灯っていた。
絡み合う宿主の動きにつられて、低空飛行するそれが、真っ直ぐこちらに向き合うのを見て、指輪を突き出した俺の頭に、
〝生命の危機を確認、泥弾(8)を発動します〟
とアナウンスが流れ、視界を埋め尽くす程の巨大な泥弾が放たれた。
尻もちをつく俺の前で、ものすごい勢いで射出された巨大泥弾に飲み込まれたサンダー・バードは、断末魔の雷撃を発すると、宿主との繋がりである雷の糸が搔き消える。
放たれた泥は山となって積もるほどの量だった。これがあの泥弾の八倍? 何かの間違いじゃないのか? と思うが、すかさず*魔法を確認すると、
【南風、硬化泥弾、硬化泥弾、雷撃】
確かに泥弾(8)が消えている。そして体が熱くなると、なんとなく力が増したような感覚があった。
〝これがレベルアップの感覚よ、それより早いところ逃げな、チャンスだよ〟
サバ姉の言う通り、雷魚竜同士はまだ絡まり合っているし、上空から狙ってくるサンダー・バードも居ない。この機を逃してはならぬと、重くぬかるむ足を上げて、先を急いだ。
確かに、手足を動かす感覚が、ほんの少しだけ力強くなっている。それにしても他者の放った魔法を流用して放つだけでも、レベルアップできるんだな。
〝そうよ、ダメージを与えた行為に関与した者が、倒した際に放たれるエネルギーを一番吸収しやすいの。それ以外にも、周囲にいるだけでも影響を受けるけどね〟
なるほど、じゃあ人が倒したところに居合わせるだけでも良いのか。といっても、モンスターを倒してくれるような他人に、この世界で出会った事などないが……間近で争い合う雷魚竜が上手いこと相打ちになってくれれば、儲けものかもしれない。
そんな事を考えていると、
〝空腹状態を確認、イカが消費されます〟
おお! やった〜。生イカ入りました〜。次の瞬間胃がモワモワっと膨れる感覚があった。それが生いかだと思うと、なんとも気持ち悪いが、まああれをそのまま食べるよりは、良いだろう。神様(自称)ありがとう。この間のクレームを聞いてくれたのかな?
しかし食料も少なくなってきたなぁ。
【リンゴ、五穀米、柿】
って、五穀米がどれだけの量があるか分からないが、最悪一粒づつって事もある。そうなったら、一気に死が近づくぞ。今度平穏な時に、五穀米の量を調べる必要があるな。溢れてこぼしてももったいないし。
〝平穏な時……そんなものがこの世界にあると思うのかい?〟
サバ姉の得意げな言葉も、今は無視だ。希望を失っては、人間生きていけないし。
〝まあそう言わないで。あそこの木、分かるかい? あの少し赤い木〟
うん? だいぶ前の方にある、今までとは少し色の違う植物の事かな?
〝そうさ、あそこまで行けば、ひと心地つけるだろう。そこで生存術教室といこうじゃないか〟
と言うサバ姉の言葉に元気つけられた俺は、喧騒に巻き込まれないように、目印の植物へと急いだ。




