イケメンが現れた! けど、どちら様ですか?
ある朝のこと。
起きたら翠が隣に居なかった。布団の奥とか、ベッドの下はもちろん確認したし、部屋のすべての箱とかを開けたり、隙間を覗いたが、何処にも居なかった。
部屋を出て台所やお風呂場、トイレも確認したのに、本当に居なくなっていた。
「翠ー、何処にいっちゃったの?」
ずっとそばに居てくれたのに、私が嫌で逃げ出したの? そういう考えに行き着いた淳美は涙が溢れてきて、その場にへたりこむと、ぐずぐず泣き始めた。
「出会いが出会いだったけど、私達、仲良く暮らしてたじゃない! 翠のバカ、人でなし! いや、蛇なんだから蛇でなしめー、今なら許してあげるから、出て来てよ」
泣きながら、翠を何度も呼ぶ。返事はない、まあ、蛇だけど。
「もーいい! 翠なんて知らない!」
しばらく泣いていたけど、一向に現れない翠に段々腹が立ってきて、やけくそな気持ちで叫んでしまった。
でも涙は止まらないまま、ふらふら立ち上がって、寝室に向かった。
誰も居ない寝室。私はつい昨日まではここに翠がいたのに、と涙がまた溢れる。
込み上げてくる何かに、どうしようもなくて、そのままベッドに倒れて、その何かを耐えた。
小さく丸まって、ぎゅっと目を閉じて。そして、気がつけば眠りについていた。
翠が居なくなって3日。何度も名前を呼んでは、現れない翠に半ば諦めていた。
野生の動物だし、仕方ないのかも。そう自分に言い聞かせることで、平静を保っている。
そして、今日も起きてすぐに、名前を呼ぶ。
「翠ー、おいで、“私のところへおいで、翠”」
翠の名前を呼ぶと、一瞬室内なのに風が吹いた。
「きゃあ!」
あまりに突然で、一瞬で布団にくるまり防御率をあげる。
しばらく布団の中でモゾモゾしていたが、何も無さそうなので、とりあえず起き上がる。
目の前に、イケメンがいた。
「えええええええっ!?」
「淳美! すまなかった、遅くなって」
目の前のイケメン......真っ白な髪の毛は、虹色の光を纏ってキラキラとしていて、キューティクルもバッチリなサラサラの長い美しい髪の毛で。
肌は象牙色をしており、傷ひとつ染みひとつない玉のような美しい肌をしている。顔立ちは洋風ではなくアジアンビューティで、冷たい印象を受ける。
エメラルドを嵌め込んだ瞳は切れ長で、縁取るまつげはフサフサ。鼻もスッと通り、唇は薄く色合いも淡い。
体型も見た感じは、しなやかな筋肉に覆われていて、無駄な肉がなく、細マッチョといったところか。
そんなイケメンが私の名前を呼び、眉をハの字に曲げて、切なそうに見つめてくるのだ。
訳がわからない。
「淳美、淳美! 怒っているのだろう? いきなり居なくなったから......私の力が戻った為、残してきた者を安心させるべく、一度家に戻ったのだ」
「は、はぁ......」
「すぐにでも戻り、淳美を迎えに来たかったのだが、家の者に準備をしてからだと、諭されてな! ようやく、準備が整い迎えに来たのだ!」
誉めて誉めて! と言わんばかりに、嬉しそうに私ににじりよる謎のイケメン。
私はなるべく距離を取る。その姿にイケメンが悲しそうな顔をする。
「淳美、嬉しくないのか?」
「あのね、悪いんですけど、貴方は誰?」
「私か? そうか、言っていなかったな、すまない。私は淳美に助けられた白蛇の翠だ!」
イケメンは一瞬白蛇の姿になると、また元のイケメンに戻った。
私は口をはくはくと動かし、まばたきをする。
「って、なんじゃそりゃぁぁぁ!」
「淳美、そなたは今日から私の番になれ!」
驚いて叫ぶ私をもろともせず、イケメン改め翠が、私をぎゅっと抱き締めた。
え、これ、なんて夢小説の展開ですか?
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話の展開が早いですかね?