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 一日の授業が終わり、放課後になった。千に見つからないようにそーっと教室から出ようとするが、

「ちょっと!タカどこに行くの!?」

 やべぇ、ばれた。ダッシュで教室から飛び出る。クラスメイトも慣れたものでまたか、という表情のみで見送る。

 廊下に出てとにかく校舎から出る。階段へ走るが千の声と走る音が聞こえる。

 無駄に足が速いから困る。運動不足気味な俺の脚では到底逃げ切れない。しかし今日の俺は違う。

 階段を上に上る。階段は廊下から見えなくなっており、今の千の位置からは俺が上ったのか下ったのかが見えないはず。

 普通なら校舎から出るために降りて行くが、あえて上に行って身を隠す。千が諦めてからゆっくり帰れば良い。

 そう思ってうえの階に行き男子トイレに入る。そうすれば千がもし上がってきてもここまでは探さないはずだ。3年生のフロアで少し居心地が悪いが仕方ない。

 少しの時間をトイレですごして、もう千も諦めただろうと思いトイレから出る。さて、ここからどうやって見つからずに帰るかと思案していると、前方から大きなダンボール箱を2つ持った女生徒が歩いてきた。重たそうで少しふらついている。

 大丈夫かと思って眺めていると、落としはしないものの疲れたのか箱を一度置いて汗をぬぐっている。

 見てしまったものはしょうがないと

「大丈夫ですか?重たいようでしたら1つ持ちましょうか?」

 と声をかける。

 え?と言いながら顔を上げた女生徒を見て俺の方が声を上げそうになった。

 黒く長い髪に非常に整った顔、それでいて力強さを兼ね備えたオーラがあった。

 もちろん驚いたのはそれだけでなく、よく見知った顔だったからだ。修勇館学園全校生徒1500人、そのトップに立つ生徒会長・北園唯だった。

 驚きから回復してもう一度声をかける。

「重たそうだったのでお手伝いできることがあれば、と思ったのですが。」

「あら、そう?助かるわ。思っていたよりも重たくて少し困っていたの。」

 無駄な断りも入れない、絶対的なリーダーでありながら他人にも頼ることが出来る。そこが彼女が人望を集めている点だとも聞く。

「これを職員室まで運ぶの。田中先生に頼まれちゃってね。中身を確認もせずに引き受けちゃったのは失敗だったわ。皆は私なら大丈夫だろうって先に行っちゃったし。」

 だから助かったわ。と言ってにっこり笑う。可憐な笑顔に見惚れそうになるのを抑えながら地面に置いてあるダンボール箱を持とうとする。

「は?」

 思わず声が出てしまった。何だこれ重てぇ。

 生徒会長はそんな俺を気にも留めず荷物を持って歩き始めた。

 気合を入れなおして持ち上げる。持てるのは持てるが結構きつい。これ2つ持っていた生徒会長はどんな力してるんだ…。

 なんとか生徒会長の後ろに付いて行き職員室までたどり着く。田中先生に渡しておつかい終了。中身は教材だったようだ。

 挨拶をして職員室から出ると生徒会長が、再度お礼を言ってきた。

「本当にありがとう。助かったわ。」

「いえいえ、生徒会長のお役に立てたのなら幸いです。」

「あら、分かっていたのね。」

 気付いてないとでも思っていたのだろうか。自分の知名度を見直した方が良い。

「もちろんですよ。集会などで何度も拝見していますから。」

「そう言われればそうね。あなたのお名前は?」

「俺、いや僕は2-Fの由利隆之です。」

「隆之くんね、覚えたわ。このお礼はいつかさせてもらうわね。」

 じゃあ、と言って生徒会長が立ち去ろうとしたところで

「あ、タカ見つけたー!」

 と千の声が聞こえた。すっかり忘れていた。逃げる間もなく捕まってしまう。

「全くどこ行ってたのよ。今日調査するって言ってたでしょ?」

 言ったところで俺の前に立っている人物に気がついた。

「あれ。生徒会長?あ、さっすがタカ!生徒会のトップを聞き込み対象にするとは!」

 違う、そんなつもりじゃない。たまたまなんだ。そんなことを言っても千は聞かない。ほら、生徒会長も困っているじゃないか。

「えーっと、あなたは確か新聞部の…?」

「はい、新聞部の望月千です。」

 こいつ生徒会長にまで知られているのか、と戦慄する。

 普段から奇抜なことをするし、事件にも首を突っ込むから顔は知られている方だと思っていたがここまでとは。

「ところで聞き込みとは?私に関係することなのかしら?」

 生徒会長は千に尋ねる。

「はい、生徒会に関することを調べていまして、今日は聞き込みを行おうかと。」

 ふぅん、とうなずきながら生徒会長が俺の方に向く。なんとなく嫌な感じがする。

「なるほど、隆之くんはそのために手伝ってくれたのね。私から聞き込みをするために。」

 へー、ほー、と言いながら軽くにらんでくる。

 俺は焦りながら

「い、いえ、そんなつもりないです!本当に単純に困ってそうだったからだけで!」

 本当にー?と言いたげな視線を生徒会長に向けられる。と、そこで一転していたずらっ子のような笑顔になって

「冗談よ。そんなつもりが無かったことくらい分かってるわ。それで?私に聞きたいことって何?助けてもらったお礼に答えるわよ。」

 本当ですか?と千が聞き返すが

「と思ったんだけど、残念ながらこれから会議なのよね。1時間後か、明日でも良いのなら大丈夫よ。」

 生徒会長は多忙なようだ。

「会議が終わるのを待たせてもらいます。私たちもまだやることがありますので。」

「じゃあ、1時間後に生徒会室に来てもらえる?そこで話を聞かせてもらうわ。」

 そう言うと生徒会長は足早に会議へ向かった。

 ふぅ、とため息をひとつつくと

「ねぇ、タカ?生徒会長がタカのことを下の名前で呼んでいたけどどういうことなの?」

 すねたような表情で千が聞いてくる。

「知らないよ。自己紹介をしたら彼女が急にそう呼んだんだ。」

 理由があるなら俺だって知りたい。

 そう、と自分が聞いたくせに興味がないように呟きながら

「まぁ、生徒会長直々に話を聞けることなんて滅多に無いんだから、その功績に免じて見逃してあげるわ。」

「はいはい、ありがとよ。」

「じゃあ、会議が終わるまで部室に戻って調べ物をするわよ。」

 やっぱり帰してくれないのか…。


 新聞部の部室に入ると、部員は誰もいなかった。連れられて部室に入るおとは少なくなかったが、他の部員がいると気を遣う。誰もいないのは有難い。

 千は定位置なのか窓際のPCが置かれた席に座り電源を付ける。俺は部屋の中央の会議用の机に荷物を置いて手近な椅子に腰を下ろす。

「調べものって何をするんだ?生徒会室のことを調べるのなら生徒会長に聞けば解決だろう。今更調べることがあるのか?」

「生徒会長が素直に話すかなんてわからないでしょう。あ、あった。ほらこれ見て。」

 何かを見つけたようで呼びかける。立ち上がって千の元まで行ってPCの画面を覗き込む。

「これは地図?いや見取り図か。この校舎のものか?」

「そう。これで生徒会室の近くに不自然なところがないか探すの。」

 見たところ不自然なところはない。普通の呼応者で普通の部屋だ。

「生徒会室の間取りもあるわよ。これを覚えておいて実際の生徒会室と比べてみましょう。生徒会室で話しを聞けるようになったのはラッキーね。」

 良くやったわ。とほめてくれる。

 2人で見取り図と間取りを見ながら押し黙る。さすがに飽きてきたころに千の机に赤と青のペンでチェックをされた資料が置いてあることに気付いた。

「千、それ何だ?」

「あぁ、これはあのサイトをプリントアウトしたものよ。自分で確認したものや、気になるものにチェックしてあるの。」

 意外とマメな奴だな。資料をパラパラとめくってみる。

 うわ、こんなにあるのか…。どうやら赤がすでに確認したもので青が気になっているものらしい。

「ん?これは…?」

ひとつだけ黄色の蛍光ペンでチェックされたものがある。

「死なない生徒…?」

「あー、それね。」

 いつの間にか千が立ち上がって俺の手元を覗いていた。

「それだけ詳しいことが書かれてないのよ。他のものには全てエピソードが書かれているのに、それには『この学園には死なない生徒がいる』って一文しか書かれてないの。

 それで気になって部長に聞いてみたら、前の部長から聞いたことがある。ただ詳しいことは何も聞いてない。って。どうやら代々そういう生徒が存在しているって話だけが伝わっているみたい。」

「死なない生徒ねぇ…。」

 不老不死ってことか?なんとも嘘くさい。

「この学園の卒業生の先生に聞いてみたこともあるんだけど、若い先生は知らなかったわ。」

 昔はメジャーな噂だったってことか?親父とお袋に一回聞いてみるか。どう考えたって嘘でしかないのに俺はやけにこの話が気になった。


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