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去年の夏休みには学園の池の主の探索を手伝わされた。
「おーい、タカ?」
あれは何だったんだろうなぁ。結局主なんて見つかるはずもなく、守衛のおじさんに怒られた。
「ねぇ、ねぇってば!」
他にも、とある木の下に昔に行方不明になった生徒の亡骸が埋まっているという噂を聞いて掘り返した。
怒られた。
挙げていけば枚挙に暇が無い。大概何も無く怒られて終わりなのだが…。
「もー!タカってば!」
もの思いにふけっていると、バシンと背中に衝撃を受けて現実に引き戻される。
振り返ってみるとそこにはよく見知った顔があった。ショートカットの髪に腕まくりをして、勝ち気な瞳にはギラギラとした何かが宿っている。
「やっと気づいた?何回呼んでも反応してくれないんだから。」
「悪いな、少し考え事してたんだよ。」
「へぇ、タカでも考えることなんてあるんだ。いっつも何も考えてなさそうなのに。」
失礼なやつだ。考えてたのはお前のことだ、とでも言ってやろうと思ったが何となく恥ずかしくなって言葉を飲み込む。
「で?朝っぱらからどうした?言っとくが俺は何もやらないぞ。」
「ふふーん、そんなつれないこと言わないでさ、今日はこれの調査に行こうよ!」
そう言って幼馴染の千は携帯の画面を見せてきた。
画面に映っていたのは
『消える生徒会役員!生徒会室には秘密の抜け道が!?』
なんだこれ?
「何と生徒会室には一般生徒が知らない秘密の抜け道があるんだよ!いざという時には学園外に逃げれるように!」
いざっていう時はいつだ。
「なんでも生徒会室に入って行く役員を見た生徒がその後すぐに生徒会室を訪ねると、そこには誰もいなかったそうよ。出口は1つしかないはずで窓から出た形跡も無かったみたい。」
聞いてもいないのに概要を説明してくれている。聞きたくない。
「そんなの生徒会役員にでも聞けば一発でわかることじゃないか。わざわざ俺が手伝うほどのことでもない。」
「そんなものは知らないって、誰も口を割ろうとしないんだよ…。これは生徒会役員しか知っちゃいけない何かがあるんだよ!」
「本当に無いだけじゃないか?じゃあ、過去に役員だった人に聞けばいいだろ。もう卒業してるんだから大丈夫だろう。」
適当にあしらって逃げようとする。
「ダメダメ。このサイトには『卒業したらその記憶を消される。』って書いてあるんだもん。」
何だその技術。そんなものがあるのなららいますぐ千の記憶を消去してやりたい。
それよりも、
「前から思っていたんだがそのサイトなんだよ。ちょっと見せてみろ。」
千から携帯を取り上げて見てみる。
―謎に包まれた修勇館学園―
なんとも手作り感にあふれたサイトだった。
ページの上部にタイトルがあり、その下にずらっとよくわからない秘密とやらが羅列さえている。それだけのシンプルなものだ。
クリックするとそのページに飛んで詳細が読めるようだ。
下にスクロールしていくと、過去に手伝わされた秘密がいくつかあった。
「誰が作ったんだこれ?」
「新聞部の先輩みたい。私が入部した時に過去の記録を見てたら、PCにそこのサイトのURLがあったの。今いる先輩達に聞いても知らないって言ってたから結構昔の人が作ったんじゃないかな。」
全く迷惑なものを作ってくれたものだ。近年ではすっかりダラダラとしてしまっている新聞部だが、昔は活発だったのだろうか。
いくつか見てみると、15年ほど前に取り壊されてしまった校舎のことも書かれているのでそれ以前に作られたものではあるようだ。
もういい?返してよ。と千に言われて携帯を返してやると、ページをさっきの『生徒会室の秘密』に戻してうんうん頷きながら
「さぁ調査するよ!早速聞き込みからよ!」
そう言って俺の手を取り連れ出そうとする。俺は抵抗しようとするが、この体のどこにこんな力があるのかというくらいの力で引っ張り教室の外に出る。
そこで何とか千を静止させ
「待て待て、今は無理だ。」
「え?何でよ?思い立ったら即行動よ。」
相変わらず周りの見えない奴だ。そもそも俺は思い立ってはいない。
俺が後ろを指差してやると察したのか、あ、という呟きをもらしながらゆっくりと振り向く。
「コラ望月!またか!さっさと教室に戻りなさい!」
やって来た先生に丸めた紙で千の頭を軽く叩きながら怒られて渋々教室に戻った。