melody~音が紡ぐ物語1
寒い。
もう12月も後半になる。寒さに弱い18才の僕は、登校途中も下校時もカーディガンを羽織らなければ耐えられない。放課後である今、僕は校門の前である人を待っている。
「祐介君、おまたせ」
おとなしくか細い声の主は、星野花。僕の彼女だ。そう、僕は花を待っていたのだ。ちなみに祐介とは僕の名前だ。
お互いに大学へ進むという進路を選び、二人とももう肩の荷は降りている。進む大学は別だが、決して遠く離れているわけでもない。
そんな花との出逢いは今年の春、つまりは高校3年になるクラス替えのときまで少しだけさかのぼる。
「あ、ごめんなさい」
教室の扉の前で僕と花はぶつかった。
「あ、こっちこそごめん」
僕の通う高校はクラス数がさほど多くはない。一学年4クラスだ。この人と一緒のクラスになるのは今回が初めてのようだ。僕はクラス替えに特にロマンも感じないタイプの人間だったが、そのときはクラス替えに運命さえ僕は感じた。
可愛い。
可愛いというより、本能的に惹き付けられるような、初めての感覚だった。
「君も、このクラスなの?」
僕は沈黙が怖くてすかさず質問した。
「うん…あの、よろしく」
「よろしくね。名前はなんていうの?」
「…星野、花です」
このときからか細い声とおとなしい雰囲気が印象的だった。
「花ちゃんか。可愛い名前だね」
緊張してしまったせいか、恥ずかしいことを言った僕よりも先に花が顔を真っ赤にした。
「そんなことないよ」
花の声が、少しだけ大きくなる。
「恥ずかしいよ」
「僕は可愛いと思うよ?」
真っ赤にした顔をうつむかせ、花は
「ごめん、私、そろそろ、行くね」
そういってトイレの方へと駆けていった。
それから、話したりする一緒の時間が増えていった。プライベートでデートすることはなかったけれど、友達の支援も受けながら僕たちは10月にあった文化祭の直後から付き合いだした。今思えばよくあるありきたりな出逢いだったけれど、僕はあのときから最高に幸せだ。
それから、もう二ヶ月。
今になってこんなことを思い出したのは、きっと寒さが一年の終わりを振り返らせているからだろうか。
花は男が苦手だってことを、クラスの協力してくれた女子から聞いたことがあった。それが、付き合う前の最大の悩みだった。それでも僕は花と仲良くなりたくて、一生懸命話かけたけれど…
「ねえ、聞いてる?」
「えっ…あぁ、ごめん」
「もう、どうしたの?」
隣を歩く花の困った横顔が、少しだけ寂しげに見えた。
「ん?花と初めて会ったときのこと、思い出してた」
「え?…そういえば、あのときは恥ずかしかったなあ」
「どうして?」
「だってぶつかったと思ったら男の人だったし、すごくトイレに行きたかったし」
花も出逢ったときのこと、覚えてるんだ。
「ははは、すごい走ってトイレの方に走っていったの、今でも覚えてるよ」
寂しげな表情が消えた、と思ったのもつかの間、すぐにまた寂しそうになる。
「ねえ、どうして、私を選んだの?」
苦笑いして、花が続ける。
「他に可愛い子、いっぱいいるのに」
ん~、困った。
今まで花にこんなこと聞かれたこと、なかったからな。
「僕が、花のことを幸せにしたいって思ったから」
思ったことを正直に伝えてみる。
「でも、私なんか、祐介君が初めての人だし…男の人が苦手だってことも聞いてるでしょ?」
寒さのせいか花の顔が赤くなる。照れてるだけなのかな。
「僕が初めてなのか!ちょっと意外だな。とは言っても、僕も花が初めてなんだよ」
「えっ!」
花のか細い声が大きくなった。かなり驚いたようだった。
「そ、そうなんだあ…」
うつむいた花の顔が笑顔になる。嬉しそうなその笑顔が、僕を嬉しくさせる。
放課後にこうして二人で帰るのが日課になっていて、家もさほど離れていない。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
そうは思うけれど、やっぱり進路のこととかもあるし。ずっとこうしていられるわけじゃ、ないんだな。
花もこれからのこと、考えてるのかな。
「あっ!」
不意に、花が遠くを指さした。
そこにあったのは、夕焼けに映える虹。
「おぉ~、綺麗だな」
夕焼けに照らされた花の顔が少しだけ赤くて、やけに可愛く見える。
花は僕の言葉にただうなずく。
「ねえ、ずっと…一緒だよね」
「もちろんだよ、花のこと、僕が幸せにするよ。なーんて、まだ気が早いか」
花が少しだけ笑みを浮かべる。その顔からはもう、寂しそうな表情は消えていた。
「でも、絶対僕が幸せにするよ」
いつものように花の家まで送ると
「それじゃあ、また明日ね」
花は満面の笑顔を浮かべてそう言った。
そうだ、家に帰ったら、押し入れにあるギターを出そう。ずっと弾いてなかったけど、まだ大丈夫かな。
花のために、歌を書こうと思った。
夕陽を眺めながら、虹に彩られながら、そして二人で笑いながら今日も帰り道。
なんか照れくさかったけど、今の気持ちを素直に言えて、よかったな。
進む道は別々だけど、これからも二人はきっと一緒だと思う。
とりあえずは高校生活の残された時間を、花と。
花と大切に過ごしていこう。
そう思った。
続く




