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melody~音が紡ぐ物語1

作者: 榊 流星
掲載日:2012/12/16

寒い。

もう12月も後半になる。寒さに弱い18才の僕は、登校途中も下校時もカーディガンを羽織らなければ耐えられない。放課後である今、僕は校門の前である人を待っている。

「祐介君、おまたせ」

おとなしくか細い声の主は、星野花。僕の彼女だ。そう、僕は花を待っていたのだ。ちなみに祐介とは僕の名前だ。

お互いに大学へ進むという進路を選び、二人とももう肩の荷は降りている。進む大学は別だが、決して遠く離れているわけでもない。

そんな花との出逢いは今年の春、つまりは高校3年になるクラス替えのときまで少しだけさかのぼる。


「あ、ごめんなさい」

教室の扉の前で僕と花はぶつかった。

「あ、こっちこそごめん」

僕の通う高校はクラス数がさほど多くはない。一学年4クラスだ。この人と一緒のクラスになるのは今回が初めてのようだ。僕はクラス替えに特にロマンも感じないタイプの人間だったが、そのときはクラス替えに運命さえ僕は感じた。

可愛い。

可愛いというより、本能的に惹き付けられるような、初めての感覚だった。

「君も、このクラスなの?」

僕は沈黙が怖くてすかさず質問した。

「うん…あの、よろしく」

「よろしくね。名前はなんていうの?」

「…星野、花です」

このときからか細い声とおとなしい雰囲気が印象的だった。

「花ちゃんか。可愛い名前だね」

緊張してしまったせいか、恥ずかしいことを言った僕よりも先に花が顔を真っ赤にした。

「そんなことないよ」

花の声が、少しだけ大きくなる。

「恥ずかしいよ」

「僕は可愛いと思うよ?」

真っ赤にした顔をうつむかせ、花は

「ごめん、私、そろそろ、行くね」

そういってトイレの方へと駆けていった。


それから、話したりする一緒の時間が増えていった。プライベートでデートすることはなかったけれど、友達の支援も受けながら僕たちは10月にあった文化祭の直後から付き合いだした。今思えばよくあるありきたりな出逢いだったけれど、僕はあのときから最高に幸せだ。

それから、もう二ヶ月。

今になってこんなことを思い出したのは、きっと寒さが一年の終わりを振り返らせているからだろうか。

花は男が苦手だってことを、クラスの協力してくれた女子から聞いたことがあった。それが、付き合う前の最大の悩みだった。それでも僕は花と仲良くなりたくて、一生懸命話かけたけれど…

「ねえ、聞いてる?」

「えっ…あぁ、ごめん」

「もう、どうしたの?」

隣を歩く花の困った横顔が、少しだけ寂しげに見えた。

「ん?花と初めて会ったときのこと、思い出してた」

「え?…そういえば、あのときは恥ずかしかったなあ」

「どうして?」

「だってぶつかったと思ったら男の人だったし、すごくトイレに行きたかったし」

花も出逢ったときのこと、覚えてるんだ。

「ははは、すごい走ってトイレの方に走っていったの、今でも覚えてるよ」

寂しげな表情が消えた、と思ったのもつかの間、すぐにまた寂しそうになる。

「ねえ、どうして、私を選んだの?」

苦笑いして、花が続ける。

「他に可愛い子、いっぱいいるのに」

ん~、困った。

今まで花にこんなこと聞かれたこと、なかったからな。

「僕が、花のことを幸せにしたいって思ったから」

思ったことを正直に伝えてみる。

「でも、私なんか、祐介君が初めての人だし…男の人が苦手だってことも聞いてるでしょ?」

寒さのせいか花の顔が赤くなる。照れてるだけなのかな。

「僕が初めてなのか!ちょっと意外だな。とは言っても、僕も花が初めてなんだよ」

「えっ!」

花のか細い声が大きくなった。かなり驚いたようだった。

「そ、そうなんだあ…」

うつむいた花の顔が笑顔になる。嬉しそうなその笑顔が、僕を嬉しくさせる。

放課後にこうして二人で帰るのが日課になっていて、家もさほど離れていない。

こんな日々が、ずっと続けばいいのに。

そうは思うけれど、やっぱり進路のこととかもあるし。ずっとこうしていられるわけじゃ、ないんだな。

花もこれからのこと、考えてるのかな。

「あっ!」

不意に、花が遠くを指さした。

そこにあったのは、夕焼けに映える虹。

「おぉ~、綺麗だな」

夕焼けに照らされた花の顔が少しだけ赤くて、やけに可愛く見える。

花は僕の言葉にただうなずく。

「ねえ、ずっと…一緒だよね」

「もちろんだよ、花のこと、僕が幸せにするよ。なーんて、まだ気が早いか」

花が少しだけ笑みを浮かべる。その顔からはもう、寂しそうな表情は消えていた。

「でも、絶対僕が幸せにするよ」

いつものように花の家まで送ると

「それじゃあ、また明日ね」

花は満面の笑顔を浮かべてそう言った。

そうだ、家に帰ったら、押し入れにあるギターを出そう。ずっと弾いてなかったけど、まだ大丈夫かな。

花のために、歌を書こうと思った。


夕陽を眺めながら、虹に彩られながら、そして二人で笑いながら今日も帰り道。

なんか照れくさかったけど、今の気持ちを素直に言えて、よかったな。

進む道は別々だけど、これからも二人はきっと一緒だと思う。

とりあえずは高校生活の残された時間を、花と。

花と大切に過ごしていこう。

そう思った。


続く

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