裏通りは定番だよな
「望って服にこだわりあるよな。塾で見てて思ったんだ。こうザ・オシャレさんって感じ」
「最高の褒め言葉だ」
「あ、やっぱ服こだわってるんだ」
ザの意味がよくわからんが、純粋に嬉しい。
しかし、一周目ではもっと後に言われた言葉だ。やはり俺があの時とは違うから、多少の変化はあるんだろう。
そのことに対し不安がよぎる。
「さぁてと、そろそろ行こっか。」
「行くって、何処に?」
わざとらしい。自分でも思う。
「タダで美味しいお菓子とお茶がでるところ」
「なんだそれ?」
進藤は鼻歌交じりに、俺の手を引き「ついて来て」と言う。
いや、ついて行きざるおえないんだが。
もうすぐだ。早く、速くと走り出しそうになる。会いたい。やっと会える。
進藤に連れていかれ今、街の裏通りにいる。
「こっから先、道が入組んでるから迷子にならないでなー」
だから、手が繋がってるから、迷子になりようがないって。
途中手を離そうとしたのだが、「なんとなく手繋いでたいんだー」という、進藤のわけわからん理由により、仲良くお手々を繋いだ状態が進行中だ。
手を引かれ裏通りを右へ左へと曲がり進んで行く。先に進むにつれて人が少なくなり、気がつけば人っ子一人いない。
そして、いかにも「廃墟です」と言わんばかりの小汚い一軒家に着いた。
うん、失礼だがやっぱり何度見ても、人が住んでいるようには見えない。
窓が一つもなく、茶色い塗装が剥がれている、コンクリートの壁。何かの植物の蔓が張り付いている。
もう一度言おう。まさしく廃墟だよ、これ。
それを狙って塗装を塗り直さなかったり、わざわざ元々はあった窓を取ったのを知ってはいる。
しかし、それでももう少し綺麗にしても良いのでは?
そう思わずにはいられない。
進藤は俺の反応を見て、苦笑しながら言う。
「大丈夫、大丈夫。中はとっても綺麗だから」
知ってる。よく知ってるよ。
みんながいる空間、みんなが作ったこの場所が、キラキラ輝きどれ程美しいかを、俺は知っている
「ほら早く入ろう。美味しいお菓子とお茶が冷めちゃうぜ」
何も言えずにいる俺にお構いなしで、進藤はドアに手をかける。
前回は、まさか「お前の兄貴にはよく世話になってるからよぉ」とかそういう意味でのお礼⁈など、不安と疑念でいっぱいだった。
だが、今は待ち焦がれた仲間に会える、安心と確信でいっぱいだ。
そして扉は開かれる。
懐かしき仲間よ 初めまして チシャ猫です
一章 終