無知は罪だ 一度言ってみたいセリフだよな
授業が終わり、相変わらず賑わっている街を通り、約束の場所へと向かう。
広場に着けば、既にそこには進藤が待っていた。
「急にごめんな。今日もしかして、なんか予定や用事とかあったか?」
あるにはあるんだが、予定も用事も今目の前にいるお前なんだよな。
幼馴染は待たずに置き去りが基本だから、予定でもないし。
「いや、街ぶらつこうかなーぐらいしか思ってなかったから、大丈夫だ」
「本当か?よかったぁ。ならすぐにアトリエ、じゃなくて、えーと前お礼に来てもらったとこ行こう」
俺もよかったよかった。予定と用事が一気に済む。
あの場所を俺はたまり場と言ってるが、進藤や茨木さんはアトリエそう呼んでいる。
理由は簡単。
元々あそこは皇城さんの陶芸家だった祖父のアトリエだからだ。
今は亡くなってしまい、皇城さんが一人暮らしに調度いいから、親から譲り受けた場所。
久木の趣味により当初とかなり風貌が変わってしまったが、本人曰く。
「住めればいい。大体桜が作った物だぞ。異論はない」
そう言う訳で、部屋一面にある久木手作りの人形などは、少しでも踏むようなら張り手が飛ぶので要注意。
「なぁ、望。一つ聞いてもいいか?」
「かまわないが?あー待った。俺が先に聞きたいわ。この手はなんだ?」
合流してから直ぐに繋がれた手。
そんなに迷子になりそうに見えるか、俺。
「いいじゃん、コミニケーションつー事で」
そうなのか?
「それより、メールでも言ってたけど幼馴染だっけ?賑やかなの苦手っつー。んなに繊細な子なの?」
「超繊細だな。だからこれからも塾では、お互い顔見知り程度ってことで。悪いな」
超嘘です。
進藤も納得いかないらしく、眉間に皺をよせブツブツ「そうは見えないんだけどなー」とか呟いている。
進藤には申し訳ないが、乃木 壇 あいつを守る為に必要なのだ。
一周目の俺はどうしようもなく馬鹿で、進藤含めたみんなと仲良くなり有頂天で、まるで一般人から芸能人にでもなった気分。
秘密基地のようなたまり場。
憧れていた仲間、しかも個性派ぞろい。その上それこそ芸能人ばりに、整った顔立ち。
俺はそんなすごい人達の仲間。
周りにいる普通の奴らとは違うんだ。
そう感じてしまい、浮かれ気づきもできなかったんだ。
知らず知らずに、置き去りにしてしまった幼馴染が、
寂しような
悲しいような
裏切られたよう
ひどく辛い思いで、歪んだ表情をしているのに。
甘えていたんだ。
あいつならきっと勝手について来てくれる。
馬鹿して居残りになった壇を置き去りにして、翌日学校で会い、「望のバーカぁ~」そう文句を言って俺の後ろに着いてくる。
いつものように。
当たり前だったから、なんて言い訳にもならない。
現実は違う。
溝が深まっていく友情。
それがきっかけに事件に巻き込んでしまった。
もう俺はあの時の馬鹿な俺ではない。
何も知らない純情無垢な「アリス」ではないんだ。