-フェンロンの場合-
今夜はサンジュンの体の調子が良いようなので久しぶりにいちゃつこうと意気揚々と王宮内の隅に建てられた我が家に向かうフェンロン
普通王宮に居を構えるなどあり得ないのだがサンジュンが後宮を離れたくない為に特別許されているのだがある意味助かる。厄介な両親に邪魔される事無く暮らせるし変な輩にサンジュンが目を付けられず安心、そして何より仕事が終わって直ぐに帰れるし昼にも度々食べに行けるので幸せこの上ないのである。
しかし最近サンジュンの体調が思わしく無く度々熱を出すのだ
龍族が病気を患うなどあり得ないのだがどうやら両性具有の体が変化してきたせいらしい
元々女性よりの体だったがその傾向が強くなり嬉しい事に胸も膨らみ始め全体的に丸みが出て女性らしくなってきたのだがその反面月のモノが来ると熱が出て腹痛もあり辛そう
見ている俺の方も気が気じゃない
後宮のあの女いわく体が子供をつくる為の準備をしているのだろう、体が安定すれば体調を崩す事はないだろうと言われた。
サンジュンは子供が出来るかもしれないと喜んでいるが俺はそれよりサンジュンの体が心配だ
俺は龍族だろうが人間だろうがサンジュンとの子ならどっちでもいいんだが、もし人間の赤子が出来れば幾ら龍族のサンジュンでも出産は危険を伴うし人間の赤子と知れば自分を責めて苦しむ事が目に見えていた。
子供はそんなに欲しいとは思わないが欲しがっているサンジュンにそんな事は言えないし
取敢えず妊娠の兆候はないので出来てから考える事にしている。
それより今夜は愛妻料理とむふっふっふと考えながら歩いていると後ろから呼び止められる。
「今晩はフェンロン」
「……」
聞きたくない声が俺の耳から脳に伝達するが拒否してしまう
「空耳だ! ん そうに違いない!」
一人納得し足早にその場を立ち去ろうとするが肩をがっしりと捕まれ体が硬直し動けない
「今夜は月が綺麗ですよ。月見をしながら私の酒にお付き合いくださいませんか」
なんだこの感じは
冷気が体を覆う
なんかすげーーーーーーーっ怒っているぞ!?
俺何か失敗したか??
仕事もサボらず頑張っていたしヘマはないはずだ
大丈夫だ俺!!
ギッギィーーーーーギッ
油の切れたノブの様に振り返ればそこには月光の光を受け神々しく微笑むユンロン
しかしその瞳は凍てつく湖のように冷たい
ヒィ―――――――――――――――――ッ
綺麗なだけに一層恐ろしさが倍増
「ユ ユ…ユン…ロン 久し ぶ り… なんか用か?」
「相変わらず無駄な耳ですね。偶には酒でも飲みかわしましょうと言ったのが聞こえなかったのですか」
「いや…サンジュンが待ってるから」
「別段貴方の家でも構いませんよ。 サンジュンロンにも色々聞きたい事がありましたので」
「ええっ!! 待て! やっぱりユンロンの屋敷で飲もう!」
ユンロンなんか連れて行ったらサンジュンがまた寝込んでしまう
折角いちゃつき同じ風呂に入ろうと思っていた予定が崩された上に滅法怒ってるユンロンの相手をさせられるなど地獄だが逆らえない
「それでは馬を待たせていますので参りますよ」
「ああ~~~ サンジュン~~~」
そしてユンロンに引き摺られながら屋敷に連れて行かれるのだった。
そして案内された通された部屋には確かに酒が用意され上手そうな酒のうけが用意されて歓迎されてはいるようだが
一体何が??????
コレはなの罠なんだと戦々恐々としてユンロンの前に座り向かい合う
「こうやって飲むのは随分久しぶりですね」
「そう言えばサンジュンと結婚してからは無かったな…」
幼少の頃からの長い付き合い
それぞれ国の重鎮となり段々疎遠となり王宮で時折仕事で顔を合わすぐらいだった。
「さあ いいお酒が手に入ったのでどうぞ」
そう言って自ら酒を注いでくれる。
「おう… すまんな」
盃を取り受けるがどうにも解せない
絶対何かあるはずなのに
訝しみながらも酒を注ぎ返す
「それで今夜は俺に何の用なんだ…」
「ただ貴方とお酒を飲みたくなっただけですが」
「嘘つけ! さっきサンジュンにも話を聞きたいと言ってただろう」
「おや 少しは記憶力があったようですね」
「で…何を聞きたい。はっきり言え」
俺は話の駆け引きなんて面倒な事は嫌いなので単刀直入に聞く
「皇女様について教えて欲しいのですが」
「レイカの?」
ピッシィーーーーーーン
そう言った途端手に持っていた盃が凍って割れてしまう。
「皇女様を呼び捨てにするなど不敬です」
酒の席で二人だと言うのに相変わらず固い…
「でもよー おしめの頃から知ってるからな~ それに小さい頃はフェンおじちゃまなんて言って可愛いの何のって…!!」
凄まじい殺意がユンロンから感じ息を飲む
「まさか皇女様のおしめを」
「そ そっそんな訳ないだろ~~ 俺男だし」
サンジュンは代えていた事は内緒にしておこう…何かされそうで怖い!
怒りは少し治まったようでホッとするが
「何故アオイ様が皇女様をお産みになったのを貴方が知っていて私が知らされなかったのです」
何を今さら?????
「そりゃあ アオイ様に懸想してるお前に知らせたら大変だってファンニュロンのババに口止めされたんだ。あの頃は陛下は子供なんか許さなかっただろうし仕方ないだろう」
それが今じゃアオイ様にベッタリでレイカに振り回されているから変われば変わったもんだ陛下も。相変わらず無口だが印象が柔らかになったしアオイ様も幸せそうだとサンジュンが自分の事の様に喜んで俺も新婚を謳歌しているのだが
考えてみればユンロンが不憫になってくる。
アオイ様は陛下と愛を深め
俺もサンジュンという掛け替えのない伴侶を得たと言うのに今だ恋人の一人もいないユンロン
「その同情に満ちた目を止めないとこの場でその首を落して差し上げましょうか」
「お前が言うと冗談に聞えんぞ!」
「勿論本気ですよ」
そうニッコリと微笑んで氷の剣を突き付けられる
「俺を殺す為の呼んだのか!?」
「まさか 大事な従弟を殺すなど恐ろしい ただの冗談です」
そうキッパリといい剣を消すが絶対に嘘だ
くそ~~~
きっとじりじりとイビリ殺そうとしてるのに違いない
ユンロンの陰険さは骨身に染みていた。
「俺はもう帰るぞ」
席から立ち上がろうとした瞬間に部屋中に氷の結界が張られ閉じ込められる。
「まだ話が終わってませんよ。人の話は最後まで聞きなさいと教えたでしょ」
「分かったから聞きたい事には全て答えるから終わったら直ぐに帰らせろ」
諦めてドカリと座りなおし自分で酒を注いで一気に飲む
グビッ グビッ グビッ プハッーー
やさぐれながら次々酒を飲む
「テジャという人間を知っていますか?」
「テジャ? 覚えが無いな」
「それでは皇女様が貧民街の学問所に通っていたのは?」
「!! え… なんでバレたんだ?!」
面倒そうなのでユンロンになるべくレイカのガキの頃は話していない
しかもレイカがガキの頃にサンジュンが開いた学問所に通っていたのを知るのは極僅か
そもそも皇女がそんな所に通っていたなどと誰も考えないはず
なのに何でバレた????
どうやらテジャという人間が関わっているらしい
必死に記憶を探ると一人の少年を思い出した。
「ああっ! レイカが人攫いに遭った時に助けだしたあのガキかー って… なんで知ってんだ??」
「テジャが助けた…それは聞いてませんでした」
どうやらあのガキを知っているらしい
「あのガキがなんか言って来たのか」
「テジャは現在丞相府の私の補佐官をしています」
「へ~~出世したんだ…見どころのある目をしてたからな。 それで更なる出世を望んでレイカの醜聞を盾に脅してきたとか」
「フェンロンと違い英明な若者がそんな姑息な手を使いませんよ」
人を誉めるなど珍しい
余程優秀なんだろう
「それじゃあ何が問題なんだ」
「皇女様です」
「レイカ…様がどうしたんだ????」
益々分らん
「どうやら皇女様はテジャに恋心をお持ちのようなのです」
「はっ!? そうだったのか」
レイカが恋
初耳だ
「サンジュロンから何か聞いてませんか」
「聞いて無いし 何をもってそう思ったんだ」
サンジュンは後宮で働いているのレイカとは毎日顔を合わせているがそんな話など一回もないぞ
今だ陛下とアオイ様を取り合っているお子様と言う印象しかない
「王宮の者達が皇女様がテジャに話しかけているのを目撃しており噂になっているのです。 実際今日私もその現場を目撃するまで信じられませんでしが遠目から見ても皇女様が心を許されているご様子。 テジャ本人に聞いたところ学問所で御学友だったと教えて貰いましたが皇女様をどう思っているかは読み取れませんでした」
「まあ 普通の男ならレイカ様に惚れるな」
レイカは見た目はまさに傾国の美女だろう
男は殆ど例外なく魂を奪われる。
軍でもレイカを崇拝するものが大勢いるし今まで丞相府のユンロン親衛隊でもレイカに転ぶ者が出てくる程
王都では姿絵が出回り人気は絶大
チラホラとレイカへの見合いの様な物を陛下に打診して来る者も出て来ている。
その内に結婚話が出て来ても可笑しくない
「皇女様はテジャをどう思っているのかそれとなく探ってください」
「何で俺が?」
「皇女様に近いサンジュンロンなら心を打ち明けるでしょう。そしてテジャを想ってらっしゃるならその願いを叶えて差し上げたいのだ」
「確かに相手は人間だが陛下みたいに臣下を一睨みで黙らせればいいんじゃねえか…」
アオイ様の存在を重臣の告げた時は数人が異を唱えようとしたが『既に婚姻の契約はなされた。我が伴侶に不満がある者は余に叛意があるとみなし覚悟いたせ』陛下は圧倒的力で黙らせた。
実際アオイ様の悪口など言えば本気で首を刎ねるぞ陛下は
それに皇女であるレイカを見せられれば標的は直ぐさま変更され沸きたつ龍族達には呆れたが
まあそのテジャがレイカの恋人にでもなればその男の命は確実に狙われるだろう
「もしかして恋人と目され既に命を狙われているのか?」
「恋人……いいえ。 その前の皇女様のお気持ちを確かめておきたいのです…」
何故か悲痛そうな表情
先程まで怒りがしぼみ今は憂いに満ちており驚く
「まぁー それならサンジュンに聞くけどよ… お前何か変だぞ?」
ユンロンらしくない
俺の知るユンロンな自らレイカの意志を確認し問答無用で婚約をさせ龍族達を黙らせるはず
「貴方だけには言われたくありません」
「もしかしてアオイ様の次にレイカに惚れたとか?」
軽い冗談の心算で言ってみた。
ピッシ――――――――――――――ッ
次の瞬間後悔する間もなく氷漬けにされてしまう
「サンジュンロンには今夜は泊ると家の者に使いを出しますので安心して下さい」
そう言ってユンロンが部屋を出て行くのを感じながら寒さで意識が遠のきそう
なんで俺がこんな目に?????
今夜はサンジュンとドロドロに愛し合う予定が~~~~~
しかしユンロンがレイカを!!!
アオイ様一筋だと思い込んでいたが
流石のユンロンもあの美しさに堕ちたのか
まさに魔性の女
……
でも俺にしたら色気が足りん
そう言えばアオイ様にも無いな
それに比べサンジュンは一見清純そうだが乱れると妖しい色気が半端無い!!
もう一晩中責め立てたい
サンジュン~~~
明日は絶対に帰るから待っててくれ~~
ユンロンのバカ野郎――ー――!
そして寒さの為かそのまま気を失うのだった。
しかしフェンロンは三日間出仕せず休暇届けがユンロンによって提出された。
そして久しぶりに出仕したフェンロンは暫らく廃人のよう
側近達は奥方と子作りに余程励んだのだろうと噂されたのだった。