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龍王の娘  作者: 瑞佳
幕間
75/78

-テジャの場合-





青龍国に皇女の存在が公表され一年の月日が流れたた。


これは丞相府に在籍する官吏官の話


テジャは三十一歳になり順調に昇進をしていきユンロン直属の丞相補佐官にまでなっていた。


丞相府は国の中枢を治める最高府であり才のある者が国中から集められるが九割は龍族で残り一割が人間である。人間でありながら龍族と同等の能力を有する者など稀で特にテジャは異彩を放っている。


何より貧民街の出であるが物おじしない堂々とした立ち振舞いは隙が無く卑しさなど微塵も感じさせない。容姿も龍族には及ばないが精悍な顔つきで目が鋭く体も武人の様に鍛え上げらており人間では一番の出世頭、市井では人間の誉れだと人気を博しており王都の人間達は自分の娘を嫁がせたいと近づく者が後を絶たない程


しかしそんな周囲にもテジャの目は醒めており日々仕事に打ち込む毎日だったが最近問題が生じ騒がしくなり困り果てているのだが


それは嘗ての知り合いの女性が原因だった。


まさかあの少女が龍王陛下の皇女様だったとは


王妃と皇女のお披露目の式典で皇女の顔を見た時周りの龍族達は皇女の美しさに見惚れ異様に興奮していたが俺は思わず眩暈がした。


嫌な予感がしたがまさに的中


今も王宮の廊下を大農府に赴く為に歩いていると後ろから呼び掛けられる


「テジャー 待って!」


うら若い女性の声で呼び止められれば男なら無視しないだろうがテジャは違った。


全くの無視どころか歩調を早め振り切ろうとする始末


しかも女性の方も負けておらず走り出し追いかけてくるのでゲンナリとする


仕方なく人目の無い中庭の茂みに誘い込むしかないかと諦めるのだった。


全く自分の立場と言うものを考えないのか!


あの糞女!!


皇女が廊下を走るなど聞いた事もない!


心で悪態をつきながら中庭に出て人目の無い茂みに入り込むと案の定皇女は後を追って飛び込んで来た。


「テジャ! なんで逃げるのよ!」


「避けているんだ! 察しろ!!」


思わず怒鳴ってしまうが本来なら打ち首


まあレイカは気にしないだろうが丁寧に話す事を心がけようと少し気を静める。


「酷い。 なんで私を避けるの」


「皇女様とあろう者が一介の官吏に気軽に声を掛けないで頂きませんか。私の立場を考えろと何度も言ってるはずです」」


「チャンと人がいないのを確認したは」


さも当り前のように言う


そもそも後宮にいるはずの皇女がこんな廊下を歩いている事自体有り得ない


恐らく数人は目撃して何処かで見ていたはずだ


俺と皇女が密会していると噂が流れ始めている今はこの場で釘をさす事にする。


「それでもです! 王宮など足を引っ張ろうと虎視眈々狙っている奴ばかりで人間の俺が皇女と話している所を見られたらどんなやっかみを受けるか分かっておいでですか!?」


実際最近あのお方からの風当たりが強い


貧民街でこいつに関わったのが運の尽きとしか言いようがない


呪われたのかもしれないと諦めるしかないのか


「もういい…… それで皇女様はしがない人間の私めに何の御用でしょう?」


目の前の煌びやかに着飾り神々しいばかりの美しい皇女様に恭しく臣下として頭を下げ礼をとる。


本当は用件などとうに知れているのだが


「相変わらず意地悪… 分ってるくせに」


プイっと拗ねる姿がガキくさい


とても皇女らしい振舞いとは思えないが公式の場ではその場の全ての者達を魅了する立ち振舞いが出来るからたいしたものだ。


今目の前にいるのは皇女と言うより貧民街のガキの頃のレイカだ


何故俺に地を見せる!!


懐くな!


「私は職務中なので手短にお願いします」


「ゴメンなさい   …………  ユンロン様は今日もお元気だった…… 」


遠慮がちに頬を染め聞いて来る。


「はい 丞相閣下は毎日政務に明け暮れ女性の影など全く無く噂も御座いませんので御安心を」


何時もどうり言葉を繰り返す。


「そう ありがとうテジャ!」


嬉しそうに無邪気な笑みを零す皇女


この笑みを見れがどんな男も虜になるだろう…無防備さは相変わらず。


本当に自分の美しさを理解していない


皇女としての立場とその美しさで迫ればあのお方も堕ちるのに


いや既に堕ちているか


知らないのは本人同士


間にいる俺が一番割を食っていると言っていい


レイカは俺にとって疫病神と同位語


「ところで皇女様 これ以降は私に声を掛けないで戴けませんでしょうか」


「えーー テジャしかユンロン様の御様子を聞ける相手がいないんだもの」


駄目だこいつは貧民街のガキの頃からと変わりない


静かな生活を送る為にもここは俺が譲歩しないといけないのかと腹を括ることにした。


迷惑だが見捨てられないのも事実


所詮俺も男、美しい女につきまとわれて嫌な気はしないのだ。


それに皇女に恩を売るのも悪くない


打算も動く


「はぁ… 分かった分かった! これから定期的に丞相閣下のご様子を教えてやるから王宮で俺を追いかけ回すな」


「本当! テジャ有難う  でもどうやって連絡を取り合うの?」


「皇女様は瞑道が使えるんだろう。月に一の日と二十の日は俺の休みだから夜なら必ずいるから俺の部屋に来い」


「えー テジャの部屋 私は一応女なんだけど」


何を今さら…アホかこの女


「俺とて選ぶ権利はある。 お前など俺の好みじゃないぞ」


そもそも龍族のレイカを襲うなど無謀だ


しかも普通の龍族ではなく龍王を凌ぐとさえいわれる次期龍王様


反対に俺が殺されるだろう


「む… 何よ!休みの日に過ごす相手がいないなんて随分寂しいのね。 もうおじさんなんだから早く相手を見つけたら」


おじさん


まあ確かにもう三十代の俺は老けてしまったのでそう言われても仕方ないが微妙に傷付く


「女など掃いて捨てるほど寄って来るぞ。 だが女なら花街で事足りてる」


ニヤリと笑ってやると


「テジャの不潔!!」


「ふん 何時まで経ってもお子様だ。 これじゃあ丞相閣下が相手にするかな」


嘲るように言ってやると顔を歪め泣きそうな顔をするレイカ


あのお方に対する想いが本気であるのが伺えた。


ガキのくせに一人前に恋か


「子供の頃よりもっと性格が悪くなったんじゃない テジャの意地悪!」


そう怒鳴りながら瞑道を開けて姿を消して行った姿は本当に子供だった。


俺も少々大人げなかったか?


まあこれで当分静かになるだろうと思い職務に戻ろうとした時ゾクリと寒気が襲う


一瞬の殺気


どうやら誰かに見られたようだ…恐らくあのお方だが


どこかで見張っているのか??


「はぁ…  俺の寿命は短いんだ。人の恋路など構っていられるか」


俺にはやり遂げたい事がある。


父と母の無念を晴らす事だ


父を陥れた龍族


そして俺達を見捨てた州知事の息子に復讐する為に生きていたのだ。


その為にも今移動願いを出している。


王都の官吏お呼び州の監査をする御史府に願い出ている。


御史府でも特別の権限を持つ巡監察御史はおいそれとはなれず精鋭が揃えられ各州を回って仕事をするのだが


まだ経験の浅いテジャでは再三無理だと言われている。能力的には申し分ないがなにしろ人間、監査するのは龍族相手では侮られ下手をすれば暗殺される可能性もあるのだ。


監査御史には高い神力が必要だった。


その為に足手まといになりかねない人間のテジャでは受け入れられて貰えないのが実情


丞相ユンロンもむざむざ有能な人間を失うのを惜しんで移動願いを聞き入れない状態


しかしこれはいい機会かもしれない


皇女の事であの方の悋気を買い巡監査御史に任じてくれればと思うが


そんな安直に事は運ばないだろう


なにしろあの丞相閣下は自分にも厳しいお方だ…私怨で動くはずが無いのだ。


その割には皇女と会った後には大量の仕事を押し付けてくるのだが


しかもヒシヒシと感じる冷気は胆が冷えると言うより実際に俺が皇女と会った日は執務室の室温が冬並みに下がる…本人は冷静に振る舞っているが神力の抑制が乱れてしまっていた。


レイカの話で丞相閣下が異世界に渡って捜していたのだと初めり、そこでお互い惹かれあったらしいがそこでサッサとくっ付けばいいのに


丞相閣下は案外恋愛下手らしい


全く厄介な二人といえる。


それより今は面倒な事は忘れ仕事をしに大農府に向かうのだった。 









夕刻には大農府から仕事を終え丞相府に戻り報告書を作成し丞相閣下の執務室を訪れたのだが気が重い


「ユンロン様 テジャですが入室してもよろしいでしょうか」


「入りなさい」


「失礼致します」


入室すると何時も通り卓の上に書類を積み上げて一人だ


何時もなら誰かしら側にいるのだが…


しかも室温はかなり冷え冷えとしていた。


「新しい学問所に関する建設費の算出の見積もりです。 お改め下さいませ」


卓の上に載せると丞相閣下はその麗しい顔を上げ書類を手に取る。


「少々時間が掛かったのではありませんか」


「申し訳ありません。 途中皇女様にお声を掛けられ職務中でありなが話し込んでしまいました」


ここは俺とレイカに何も無い事を話しておく事にする。


「皇女様は何を」


表面上は何時もと変わらない様子だが今の一言で確実に室温がまた下がる。


その変化に全く気付かないのは本人だけ


「どうやら新しく建設される学問所に興味がおありのようで何か手伝えないかと申されたのですが丁重にお断り申し上げるとご機嫌そ損ねたようです」


レイカと別れた時に感じたのは絶対にこのお方の気配


見られていたならそれとなく状況を合わせて嘘をつく


「確か皇女とは幼少の頃からの知り合いとか」


皇女との関係を数人に聞かれたので幼い頃の顔見知りだと話した。


俺の出自が貧民街だと知っているので冗談だと捉えられたようだがどこかからか伝え聞いたのだろう


「はい。 ユンロン様には打ち明けておきますが貧民街の学問所で共に学んだ学友でしたので僭越ながら度々お声を掛けて戴いております」


「皇女様が貧民街の」


矢張り初耳らしい


確か丞相閣下は大将軍閣下とは幼馴染


「まさか皇女様とは知らず親しくして貰っておりましたが、一度だけ皇女様が攫われフェンロン大将軍閣下もお目見えになった事が御座いましたので可笑しいとは思っておりました。 決してこの事は外部には漏らしませんので御安心を」


皇女として外聞がいい話ではない


「そうですか。 それより報告書は何も問題はないようですので陛下も何も仰らないでしょう」


俺の仕事に間違いなど無い


「有難うございます」


「それと悪いのですがこの案件を至急まとめてくれませんか」


そうして差し出されたのはぶ厚い書類の束


「はい」


「明日の昼までで宜しくお願いします」


「…… 分りました。 それではこれで失礼致します」


すでに俺に興味が無いように書類に目に落し仕事を再開し始めるので目礼をして部屋を辞し扉を閉めてホット息をつくが


ゾワリ!!


凄まじい神力の波動が扉を通して伝わりゾッとする。


恐らくコレは俺に対するものではない…嫉妬と言うより怒り


フェンロン大将軍閣下に対するもの


皇女が貧民街の学問所に通っていた事実を知らなかった様子なので悪いがフェンロン大将軍閣下の名を出せば俺から意識が逸らせると考えたのだが…


手元にある書類を見てゲンナリする。


コレは何時もより少ないので一概に失敗とは言えない


それにレイカも王宮で接触する事はなくなるので余計な仕事は無くなるだろうと思うのだった。



きっと今夜はフェンロン大将軍閣下はただでは済まないだろうが


「何事にも犠牲は必要だ」


俺の平安のために


そして自分の仕事を確実にこなす為に自室に戻るのだった。










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